衆議院で圧倒的多数の議席を獲得した高市首相は山積する難局を乗り越えられるのか。国際基督教大学教授のスティーブン・R・ナギさん(政治学・国際関係学)は「高市首相に今後100日で待ち受ける落とし穴は4つある。いずれもクリアしないと内外からの評価は崩壊するだろう」という――。

習近平は高市首相の真価を試す口実を探している

高市早苗首相は2月の総選挙で歴史的な圧勝を収めた。前任者たちが成し遂げられなかった偉業だが、「勝って兜の緒を締めよ」という諺を今こそ自らに言い聞かせるべきだろう。

高市氏は今、地政学的瞬間に直面している。ワシントンでは、ドナルド・トランプ大統領が新たな「国家防衛戦略」を掲げてホワイトハウスに復帰し、日本にGDPの3.5%を防衛費に充てるよう要求した。現在2%到達に苦戦している日本にとって気の遠くなる数字だが、東シナ海の向こうでは、習近平が日本初の女性指導者の真価を試す口実を探している。

令和7年10月31日(現地時間)、APEC首脳会議に出席するため韓国を訪問中の高市総理は、中華人民共和国の習近平総書記(国家主席)と首脳会談を行った
令和7年10月31日(現地時間)、APEC首脳会議に出席するため韓国を訪問中の高市総理は、中華人民共和国の習近平総書記(国家主席)と首脳会談を行った(写真=首相官邸ホームページ/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

もし高市氏が今回の勝利をイデオロギー的虚栄心プロジェクトへの信任と取り違えれば、彼女の政権は夏の湿気が訪れる前に崩壊するだろう。

彼女は今後数カ月内に、以下に示す4つの落とし穴を乗り越えなければならない。どれか一つでも失敗すれば、救世主ではなく、日本の最後のチャンスを浪費した政治家として記憶されることになるかもしれない。

優先課題4:「賃金・物価」の罠(国内経済)

賃金・物価対策は彼女の政権寿命にとって最も重要なものだ。高市氏は「新戦略経済」を直ちに実行に移さなければならない。有権者の最大の関心事は、卵の値段が上がる一方で、給料が平成時代に凍りついたままであることだ。

日本は現在、経済の「中国離れ」に全力投球している。『フォーリン・アフェアーズ』誌のブルーメンソール氏らが指摘するように、東京は国策半導体企業ラピダスに100億ドル以上を投入し、2027年までに2ナノメートルチップの量産を目指している。技術主権にとって必要な賭けだ。しかし、最先端の半導体は、短期的には労働者階級の食卓に食べ物を並べてはくれない。

高市氏は今後、古い自民党の戦術――経団連に賃上げを丁重にお願いし、中小企業に曖昧な補助金を提供するといった施策に頼れば、そのお金は岸田文雄政権時代と同様、企業の内部留保に吸収されるだけだろう。

彼女は来る春闘で、コアインフレ率を「超える」賃上げへのコミットメントを強制しなければならない。もし6月までに実質賃金がマイナスのままなら、「高市ブーム」は「高市不況」へと転落する。彼女は、労働者階級を見捨てて産業の旗艦企業を優遇する企業主義者とレッテルを貼られるだろう。リスクは、経済の「戦略的」側面(半導体、電池、防衛サプライチェーン)に集中するあまり、「家計」の側面を軽視することにある。国内消費にエンジンがかからなければ、日本は彼女が望む防衛力増強を持続できない。