高市首相の「真冬の賭け」は吉と出るか凶と出るか。世論調査では総じて自民党優勢と報じられているが、どんでん返しはあるのか。国際基督教大学のスティーブン・R・ナギさん(政治学・国際関係学)は「日本の総選挙の結果を世界各国やマーケット、投資家なども注視している。その結果は、4つのシナリオに分類され、2026年のアジア安全保障構造の行方にも大きな影響を与える」という――。
高市早苗首相=2026年2月4日
写真=共同通信社
高市早苗首相=2026年2月4日

高市早苗首相の賭けの吉凶は

高市早苗首相は、スピードこそが最大の武器であるという賭けに出た。立憲民主党(中道改革連合)など野党が候補者調整を終える前に、そして2025年10月の首相就任直後の「ハネムーン期間」の支持率が残っているうちに動く――。

2月8日の投開票に向け選挙戦は終盤に入っている。候補者一人ひとりは当選を目指し、声を枯らしてのアピールに必死だが、視点を引いてみれば、もっと大事なものも見えてくる。インド太平洋の安全保障と経済的ステートクラフト(国家運営術)のレンズを通して見れば、高市氏が賭けるお金は「国家の実存」そのものだということである。

日本は国内の生活費高騰に対処しつつ、対外的には信頼に足る、抑止態勢を維持できるマンデート(信任)を確保できるか否か。今、我々が目撃しているのは、日本の「国内政治時計」と、外部の「地政学的タイムライン」の衝突である。

2026年のアジア安全保障構造の行方を理解するには、選挙戦の喧騒を踏まえつつ、4つの異なるシナリオを分析する必要がある。

シナリオ1:自民党単独過半数

第1のシナリオは、高市氏の賭けが成功する場合だ。自民党が単独で安定多数を確保し、彼女が掲げる「新国家構造」への信任を得る。これは統治能力の観点からは最もクリアな結果だ。予算は円滑に成立し、連立パートナーの拒否権に政策が人質に取られることもない。

だが、地滑り的勝利は万能薬ではない。それは巨大なリスクを伴う「許可証」でもある。フィナンシャル・タイムズ紙のレオ・ルイス氏が指摘するように、政治的モメンタムと経済的信頼性の間には明白な緊張関係がある。市場は高市氏の積極財政への意欲に敏感に反応している。最近の円相場の変動と国債利回りの上昇は、投資家の不安を物語っている。

もしこの選挙が、高市氏の看板政策である「危機強靭化パッケージ」という名の歳出拡大への信任投票と見なされれば、世界中の投資家はこれを「財政規律の喪失」へのゴーサインと解釈するだろう。

日銀が政策正常化を模索する中で、財政規律から解き放たれた政府は「国債市場の反乱」を招くリスクもある。これは戦略的な大惨事だ。もし、通貨危機への対応に追われることになれば、日本は対中国など東シナ海での影響力を維持したり、CPTPP(環太平洋パートナーシップ協定)でのリーダーシップを発揮したりする余力はない。

一方で、外交・安全保障政策においては、強力な信任は変革をもたらす。ワシントンや台北はこれを「加速への許可」と読むだろう。高市氏は憲法9条改正と台湾との相互防衛枠組みの公式化を明言している。

単独過半数は、改憲の国民投票に向けた法的メカニズムを動かす力を彼女に与える。これは抑止力を安定させる一方で、習近平率いる中国との即時かつ鋭い摩擦を招く。地滑り的勝利は、往々にして指導者に「選挙の数字」を、「戦略的コンセンサス」と錯覚させる誘惑を持つものだ。