シナリオ4:脆弱な少数与党政権

高市が過半数を確保できず、ハング・パーラメント(宙吊り国会)や脆弱な少数与党政権となる事態となるのが、第4のシナリオである。テールリスク(確率は低いが巨大な損失をもたらすリスク)ではあるが、2026年の不安定な情勢下では無視できない。超短期決戦は、スキャンダルや野党の突発的な結束といった「ブラックスワン」への感度を高める。

この結果となれば、日本の国内政策環境はカオスと化す。中期的な戦略(賃金、エネルギー安全保障、産業競争力)への信頼できるコミットメントは不可能になる。

インド太平洋にとって、これは悪夢のシナリオだ。麻痺した東京にリーダーシップは取れない。クアッド、日米韓、そして日比といったミニラテラルの枠組みにおける「かなめ」としての日本の役割は蒸発する。

これらのメカニズムが機能するには、官邸の確固たる手綱さばきが不可欠だ。「ネットワーク化された安全保障」の建築物はほころび始め、北京は間違いなくこの政治的空白を、日米同盟にくさびを打ち込む戦略的好機と捉えるだろう。

「ハーメルンの笛吹き男」トランプ要因

これら4つのシナリオの上に覆いかぶさるものがある。それは、制御不能な変数=ドナルド・トランプの帰還である。私が以前、平和・安全保障研究所(RIPS)の論考で主張したように、第47代大統領は、独特のアメリカ的ショーマンシップで演じられているだけで、実は数世紀にわたり記録されてきた古典的なステートクラフト(権力政治)を実践しているに過ぎない。

トランプは、いわば地政学的な「ハーメルンの笛吹き男」として振る舞い、敵も味方も操る戦略的カオスを創出する。もし、日本政府が弱体化、あるいは内向きになった時、この曲をさばく能力はないだろう。

ロバート・ブラウニング版、童話『ハーメルンの笛吹き男』のための、ケイト・グリーナウェイによる挿絵
ロバート・ブラウニング版、童話『ハーメルンの笛吹き男』のための、ケイト・グリーナウェイによる挿絵(画像=CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

ワシントンが同盟を「神聖な信託」ではなく「貸借対照表(バランスシート)」として見ている兆候はすでに表れている。東京が国内政治で麻痺する状態に陥れば、法外な駐留経費負担(HNS)の要求や、安全保障と貿易赤字のリンクといった取引的な圧力に反論することなど不可能だ。

日本が政治的に脆弱だと見なされれば、「笛吹き男」は東京を完全に素通りし、北京やソウルと2国間取引を行い、日本の国益を切り崩すかもしれない。

逆に、強力な高市政権誕生ならば、半導体や造船における日本の産業能力をテコに、同盟を「みかじめ料の徴収」ではなく「相互資産」として再定義できる可能性がある。