※本稿は、野口修平『地球を守る! 快適な生活が手に入る!「遮熱」超入門』(日刊現代)の一部を再編集したものです。
断熱材に「熱を断つ力」はない
現在、ほとんどの日本の建築物では「断熱材」が室温をコントロールするために活用されています。ただ、思い込みは怖いもので、じつは「断熱材」は、その「断熱」という名称とは違って、熱を完全に遮断する素材ではありません。
その本質は「熱伝導の遅延装置」なのです。熱の移動を止めるのではなく、時間的に遅らせる効果が、その特徴となっています。つまり断熱材とは「熱を遮断する」のではなく、「熱の移動速度を意図的に遅らせるもの」と考えるのが正しいといえるのです。
この本質を誤解したままでは、夏季の高温環境、とくに日本の住宅が直面している長時間の暑熱問題を正しく理解することはできません。断熱材は熱の侵入を止めるのではなく、いったん内部にため込み、時間差をつくることで室内環境を調整します。つまり、その性能は結局「時間」とセットで判断しなければ意味がないのです。
ここで、熱の基礎を再確認します。熱の移動は「伝導」「対流」「輻射」の三形態に分類されます。大切なのは、これらすべての熱移動が「高温から低温へ向かう」という不可逆な性質を持つ点です。冬の寒いときなどに私たちは「冷気が伝わってくる」と感じることがあります。
ところが実際にはそれは間違いです。そのように感じるだけで、実際は私たちの体温(高)が周り(低)へと移っていった結果、体温が下がって寒くなったと思うのです。熱が意思を持っているわけではありません。どんな場合でも、温度差に従ってより高い方から低い方へと移っていくだけなのです。
断熱性能の正体は「空気の壁」
このような性質を持つ熱のなかで、断熱材が直接的に抑制できるのは「伝導熱」です。伝導とは、分子から分子へ熱が移動する現象のことをいいます。実際、経済産業省資源エネルギー庁「省エネ性能表示制度資料」(2023年)でも、断熱材の評価指標は熱伝導率(λ値)で示されます。
断熱材の多くは、グラスウールやロックウール、発泡ウレタンなど、内部に大量の空気層、つまり「動きにくい空気」を含んでいます。空気は熱伝導率がきわめて低いため、これを繊維や泡のなかに閉じ込めることで、分子間での熱の受け渡し(熱の伝わり)を遅らせることができます。実際は、これが断熱性能の正体なのです。
ここで正しく認識したいのは、「熱が遮断されるわけではない」という点です。断熱材によって、熱を伝えにくくすることはできても、高温から低温へ移動するという熱の自然法則を遮ることはできません。残念ながら、結局、熱は建物の内部へ侵入していってしまうのです。移動速度を遅らせる、その時間差こそが断熱であり、この性質を端的に表す表現が「熱伝導の遅延装置」といういい方になります。
断熱材は伝導熱に対して働きます。しかし、実際に建物に出入りする熱の約75%は「輻射熱」なのです。この輻射熱は、電磁波として空間を伝わり、真空中でも移動するという特性を持つもので、室内温度も輻射熱の影響を大きく受けているのです。

