日本の「全体像」は届かない

私は香港中文大学で日本政治と外交を教えたことがあります。日米同盟、安全保障環境、インド太平洋戦略などを扱いましたが、受講生は30人前後でした。一方、マンガ文化やアニメ研究の授業には300人近い学生が集まりました。大学では受講する学生の数が、予算や教員数に直結します。人気分野は拡大し、政策研究は縮小する。この構造は香港だけでなく、台湾、シンガポール、カナダ、アメリカでも見られます。

その結果、日本は「面白い文化の国」、いわばクールジャパンとしては世界的に人気がある一方、「戦略を持つ国家」としての理解が広がりにくいという構造的な課題を抱えているのです。結果として、日本=「フジヤマ・ゲイシャ・サムライ」もしくは、「アニメ・漫画・キャラクター」といったステレオタイプでしか海外では語られないというジレンマを抱えています。

見えにくい日本の現実

しかし実際の日本は、静かに重要な役割を果たしています。

防災分野では、日本は世界でもっとも厳しい耐震基準を持っています。東日本大震災を経験し、早期警報システムや津波対策、避難マニュアルを改良してきました。新幹線が自動停止する仕組みや、高層ビルの制震構造は海外からも注目されています。インドネシアやトルコでは、日本の技術協力によって学校の耐震化や防災教育が進んでいます。

半導体分野では、北海道千歳市でラピダスが最先端チップの量産を目指しています。熊本ではTSMCの工場が稼働し、日本企業が材料や装置を供給しています。半導体は自動車や医療機器、AI、スマートフォンの基盤です。安定した供給体制を築くことは、日本だけでなく世界経済の安定にもつながります。

【図表1】Rapidus株式会社の実施計画の概要
出典=経済産業省

外交面では、「自由で開かれたインド太平洋」構想のもと、日本はフィリピンに巡視船を供与し、海上保安能力を支援しています。インドとは高速鉄道や港湾整備で協力しています。ASEAN諸国には港湾や道路整備、人材育成支援を行っています。オーストラリアやアメリカとは共同訓練を重ね、EUやカナダとも戦略対話を続けています。

これらは軍事拡張ではなく、地域の安定を支える政策です。しかし、こうした取り組みはポップカルチャーほど目立ちません。だからこそ、説明が必要なのです。