6月中旬、ロシア・モスクワ近郊がウクライナのドローン攻撃の標的になった。首都圏エネルギー供給の要衝を突かれ、プーチン大統領は「ウクライナ軍の攻撃はロシア経済を傷つけている」と公に認めた。ロシア軍が一夜に555機のドローンを撃墜してもなお守り切れなかった、“ロシアの急所”とは――。
2026年6月28日、全ロシア政党「統一ロシア」の第23回党大会
2026年6月28日、全ロシア政党「統一ロシア」の第23回党大会(写真=ロシア連邦大統領府/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

クレムリンから15キロ先で上がった火柱

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が執務する拠点の一つであるクレムリンから、距離にしてわずか約15キロメートル。6月18日、モスクワ製油所が巨大な火柱を上げた。

ウクライナからの大規模なドローン攻撃を受け、黒煙が立ち上るモスクワ製油所(2026年6月18日)
写真=AFP/時事通信フォト
ウクライナからの大規模なドローン攻撃を受け、黒煙が立ち上るモスクワ製油所(2026年6月18日)

ロシアのメディアが公開した映像には、首都の空を呑み込む黒煙が映っている。住民からは、街路に真っ黒な「石油の雨」が降り注いだとの報告も相次いだ。英BBCは、燃料タンクの巨大なフタが数十メートル上空に舞う衝撃的な映像を伝えた。

ウクライナはこの大型製油所を、わずか1週間で2度攻撃している。CBSニュースによると、最初に被弾したのは6月16日。炎上したものの、即座に消し止めたと当局は説明していた。

ところが2日後、再びドローンの直撃を受け、大規模火災が起きる。今度は消し止められなかった。一連の攻撃は、2022年のロシアによる全面侵攻以降、ウクライナによる最大級のドローン攻撃となった。

ウクライナのゼレンスキー大統領は記者団に宛てたWhatsAppの音声メッセージで、「大切なのは、ロシア国民がこの戦争を仕掛けているのはプーチンひとりであり、すべてのツケを払っているのは一般の人々だと気づき始めることだ」と呼びかけた。

こうした波状攻撃で、ロシアの石油産業は機能不全に陥った。世界第3位の産油国でありながら、モスクワ首都圏ではついにガソリンの給油制限が始まっている。

「555機」を撃墜しても守れなかった急所

6月18日の攻撃では、モスクワの街が黒煙に覆い尽くされた。

カタール国営衛星テレビ局のアルジャジーラによると、住民からは、「油の雨が降った」「あらゆる表面が黒いすすで覆われた」との報告が相次いでいる。前線から遠く離れたはずの首都で、住民たちは戦争の当事者国であることを肌で感じ始めている。

ウクライナ軍参謀本部の発表によれば、同製油所の製品はモスクワ首都圏の燃料消費の38%超を賄う。近隣の4つの空港への航空燃料供給も、この製油所が一手に担っていた。首都圏のエネルギー供給が集中する、いわば急所だった。

製油所は操業停止に追い込まれた。モスクワ周辺では汚染の影響で6空港が閉鎖され、多数の便が欠航している。

ロシア国防省によれば、一夜で撃墜したウクライナのドローンは555機。うち約200機はモスクワ近郊で迎撃したという。それだけ撃ち落としてなお、首都圏の燃料供給の生命線は守り切れなかった。

このほか、ロシア中部の製油施設が軒並み、ドローン攻撃のターゲットとなっている。ロイター通信は5月、同地域の主要な製油所のほぼすべてが、操業停止か生産縮小に追い込まれたと報じた。

同通信によると、操業を全面または一部停止した製油所の処理能力は合わせて年間8300万トン超。1日あたり約23万8000トンにのぼり、ロシアの製油能力全体のおよそ4分の1にあたる。

なかでもロシア西部にあるキリシ製油所はロシア最大級の施設で、年間処理能力は2000万トンに達する。5月5日を最後に、操業は完全に止まったままだ。