日本を代表するトップリーダーは、いつ会っても機嫌がいい――。無礼を働かれても、怒鳴りつけることなく、問いを投げる。長年、名経営者を取材するノンフィクション作家が明かす「超一流のふるまい」とは。

怒鳴らず、無言で、最後まで聞く

織田信長と聞くと、史上もっとも不機嫌で、何かといえば部下を強烈に怒鳴りつけたり、罰を与えたり、最終的には死に追いやったりする人物ではないかというイメージがある。映画や大河ドラマに出てくる織田信長の人物造形はだいたい、そういったものだからだ。

しかし、実像は違う。

織田信長についてちゃんと調べた作家と文芸評論家の著書を読むと、信長は無闇に怒鳴りつけたりする人ではないということが書いてある。

2005年、75歳の時、250万部のベストセラー小説『信長の棺』を出したのが加藤廣だ。加藤廣は織田信長を書くために膨大な資料を読み込み、現地取材も行っている。執筆には15年という時間をかけたという。ここまで織田信長について調べた作家は決して多くはない。

加藤は別の著書のなかでこう書いている。「織田信長は軍議では最後まで無言で部下の言うことを聞いていたと言います。そのほうが部下としては恐ろしかったでしょうね」(『ピタゴラス流経営術』日経プレミアシリーズ)

もうひとり、織田信長についての評論を著し、確固たる評価を得ているのが文芸評論家の秋山駿だ。秋山の著書、『信長』については作家の石原慎太郎が「信長という未曽有な人間を正確に捉えるというこれまた未曽有な成果をもたらしてくれた」と激賞している。人や作品を褒めることが少なかった石原慎太郎にしては稀な言葉だ。

秋山は信長の言葉について、次のように書いている。「信長が発した言葉を、われわれは大して知らない。『であるか』『是非に及ばず』といった類のものばかりである」(『信長』新潮文庫)

ネット上には「織田信長の名言」といった言葉が載っているけれど、だいたいは創作、もしくは創作されたものの転載だろう。

秋山によれば、信長は「であるか」「是非に及ばず」くらいしか言葉を残していない。加藤廣は「部下の話を黙って聞いていた」と書いている。織田信長は名言を滔々とうとうと述べる人ではなかった。説教くさいことを長々としゃべる武将でもなかった。行動の人だった。

信長が軍議で黙って聞いていたのは部下に喋らせたかったからだろう。信長は情報を重視する武将だ。部下が見てきたこと、聞いてきたこと、知っていることのすべてを知りたかったから、口をはさまずじっと聞いていたのではないか。

(写真=時事通信フォト(柳井氏、豊田氏)、市来朋久(岡藤氏))