何があっても動じない「温厚な人」は、どう自分の機嫌を取っているのか。プレッシャーを跳ね除け成果を出す4人に、自分を大切にする方法を聞いた。
カレーハウスCoCo壱番屋 創業者 宗次德二
【掃除】
気分は「いじる」のではなく、手を動かして整える

毎朝1時間、本気の「ニコ、キビ、ハキ」

私の一日は朝3時台から始まります。起床して事務所に入り、タイムカードを打刻します。その後、1〜2時間ほど机に向かって返信や事務仕事をこなして、朝6時半からは地下鉄栄駅12番出口から宗次ホールまで、約430メートルを掃除しています。ボランティアの有志が10人ほど集まって取り組んでくれていますが、みんなで集まっておしゃべりしながら掃除することはありません。各自が分かれて黙々とやります。すれ違うときに「おはようございます」と声をかける程度で、1時間ほど掃除をした後は、掃除道具を片付け、「お疲れさまでした」と挨拶し解散します。

掃除に臨む際に大切にしているのは、真面目に、徹底して取り組むことです。ボランティアの方々には「掃除の心得」をお渡ししていますが、厳格に守れというわけではなく、“こんな気持ちでやってほしい”という思いを伝えたものです。心を込めてやると、小さなゴミや数センチの雑草にも自然と目が向くようになります。掃除は地味なことですから、集中してやるべきですし、やる以上は「ニコ・キビ・ハキ(ニコニコ・キビキビ・ハキハキ)」と動くことが大事です。ダラダラやっていたら、通行する人も「もう少し、シャキッとやれないんかな」と思うでしょう。それでは申し訳ない。私は「人目を気にする」面が多分にあります。

「今日はゴミがないから30分で切り上げよう」ということはありません。私は「素足で歩いても痛くない」ほど、きれいにすることを心がけています。短めのほうきで、砂ぼこりをサッサッサッと掃く。何事にも一生懸命に集中してやる。他人さんと一緒にやるのですから、誰よりも一生懸命やる、一番になろうという姿勢が大事です。雨の日も関係ありません。むしろ張り切るくらいです。掃除は毎日やらないと意味がありません。街は毎日汚れますから、週1回や月に1回では不十分です。出張などで掃除ができなかった日は、「やれなかった」と残念に思いますし、毎朝来てくださるボランティアの方々に申し訳ない気持ちになります。毎日続けることで初めてそれが「当たり前」になります。最初のうちは大変ですが、やり続けるうちに周囲の反応が変わり、良い目で見ていただけるようになります。そうなるとやめられなくなり、やがては「やらずにいられない」状態になっていくのです。

そもそも私が掃除をするようになったのは、人に褒められるためでも、評価されるためでもありません。打算や損得でやっていたら、続かないでしょう。出発点は、地下鉄栄駅12番出口から宗次ホールまで足を運んでくださるお客様をきれいな道でお迎えしたい、という思いでした。根底には「この界隈にお世話になっている」との感謝の気持ちがあります。見返りを求めずに続けることで、結果として自分の気持ちも穏やかになります。少なくとも、続けてマイナスになることはありません。

悩みがあっても仕事や掃除に集中すると、不思議と忘れてしまいます。悩みを抱えて眠れない夜があれば、「布団を出て仕事しよう」と切り替えます。体を動かして目の前のことに一生懸命取り組む。そうやって行動することで、自然と気持ちが切り替わっていくのです。

宗次流「本気の掃除」 3つの方法

「まず店を掃除しなさい」 悩むオーナーに伝えた理由

もともと、私は掃除が得意でも好きでもありませんでした。喫茶店時代も、店内や駐車場の掃除はしていましたが、公道まで掃除しようという発想はまったくありませんでした。意識が変わったのは、ココイチを始めてからです。のぼりを立てるようになって雑草が気になり始め、細かいところに目が向くようになったのです。人に掃除を促す立場である以上、自分がやらなければ説得力がありません。お客様の立場からしても、お店の人たちが一生懸命掃除している姿は気持ちのいいものでしょう。そういう姿勢が見えれば、「一度利用してみようか」「きっといい店に違いない」と感じていただけます。それが信頼につながっていくのだと思っています。

ココイチ時代のあるとき、売り上げが前年比で落ち込んでいた愛知県のオーナーが「本部でセットメニューや低価格策を考えるなど何かしてほしい」と直接言いに来ました。私は「そんなことは考えられない。接客重視なのだから、まず店の掃除をしなさい」と伝えました。店内や敷地内だけでなく、公道や歩道の草まで取る。しかもオーナー自らが先頭に立ってやりなさい、と。オーナーが本気になって掃除に取り組むと、店の姿勢が変わります。「あそこのオーナーはいつも自分で掃除している」と伝われば、お客様も「一度行ってみようか」「きっといい店だ」と感じてくださるようになる。それが信頼となり、店を再生させていくのです。ただし、売り上げへの効果はすぐには出ません。半年、1年、3年とかかります。また、掃除は売り上げのためにやるものでもありません。「ここでお世話になっているのだから、少しでも地域に貢献しよう」という感謝の思いでおこなうべきものなのです。

毎朝掃除をしていると、嫌な思いをすることもあります。酔った人がプランターを蹴飛ばしたり、カラスがゴミをつついてひどい状況になっていたり。そういうときこそ余計に掃除をしないといけません。「またこんなことになっている」と受け止めるだけで、誰かに怒ったり、文句を言いに行ったりすることはありません。きれいになった後も、「いいことをした」と自己満足に浸るわけでもないです。そういうレベルの話ではありません。「私のような人が各町内に一人いれば、街はもっときれいになるのに」とは思いますが、やる人は不思議なほど現れません。だからこそ、私がこの界隈だけでも掃除をさせていただこう、という思いで続けているのです。

掃除するときは挨拶を欠かさず「ニコ・キビ・ハキ」を意識。
掃除するときは挨拶を欠かさず「ニコ・キビ・ハキ」を意識。通りには黄色の花が並んでいる。

「掃除で日本一」「笑顔でも日本一」

私が常に根底に持っているのは、この地域にお世話になって商売をさせていただいているという感謝の気持ちです。「自分の努力で得た利益は自分が好きに使う」という経営者も多くいると思いますが、私は多くの人に支えられて今日まで来ているという思いを強く持っています。だからこそ、時間や気持ちに余裕があれば、人に手を差し伸べたいという気持ちが自然と生まれてくるのです。

自分の欲求を満たすことを最優先にすることだけを続けていると、感謝の気持ちからは遠ざかってしまいます。経営者も例外ではなく、私自身も傲慢になっていると感じる瞬間があります。だからこそ、毎朝の掃除は、傲慢になりそうな自分を戒め、感謝の気持ちを持ち続けるための行為でもあるのです。

(構成=向山 勇 撮影=藤井昌美)