何があっても動じない「温厚な人」は、どう自分の機嫌を取っているのか。プレッシャーを跳ね除け成果を出す4人に、自分を大切にする方法を聞いた。
第100代・101代内閣総理大臣 岸田文雄
【笑顔】
「増税メガネ」を自らネタにキツい批判こそ笑って返すべき

「春風」の微笑みが相手の心を開かせる

総理大臣という立場は、批判を浴びることも仕事の一つといったところがあります。連日連夜、批判やバッシングを受け続けますし、特に近年ではSNSなどが発達したことで大量の批判にさらされるようにもなりました。中には誹謗中傷や、全くのフェイクニュース、嘘八百を並べ立てたものも少なくありません。こうした情報があふれかえる状況下では批判を謙虚に受け止めつつもその内容を精査し、選別する能力も必要になります。

フェイクニュースを根拠とするようなものまですべてをまともに受け止めていては、心の平静を保つことはできません。しかし一方で、すべてに耳や目をふさいで、本来受け止めるべき批判までもシャットアウトしてしまえば、政治家としては終わってしまいます。

この情報社会の政治家として生きていくためには、批判を選別し、受け止めるべきものとそうでないものを選別する能力が求められる。社会の変化を感じ取り、情報との付き合い方やバランスを保つ能力を、自ら磨いていかなければなりません。

私が33年にわたる政治家人生、中でも総理大臣として大事だと思ってきたのは、「聞く力」「決断する力」、そして「説明する力」の3つです。

「聞く力」については、直に国民とひざを突き合わせて意見をうかがう車座集会などを行ってきた経験から養われました。ここには「聞くべき意見を選別する力」も含まれます。

「決断する力」は言うまでもなく、様々な課題や状況において、最後の最後で「どちらを選ぶか」を決断することです。これができなければ、政治家としての仕事を全うすることはできません。

そして「説明する力」を発揮する機会は、決断の後にやってきます。なぜその選択肢を選んだのか、会見やメディアの取材を通じて、あるいはSNSやYouTubeも使って、説明していく努力が必要不可欠です。

総理大臣を退任した後、YouTubeチャンネルを開設しました。これも「説明する力」を備えるため。おかげさまで19万人以上の方がチャンネル登録をしてくださっていますが、これはひとえに「どのように説明し、発信すれば国民の耳に届くか」を考えた結果です。オフィシャルなものより、柔らかい砕けた雰囲気の映像のほうが、国民に届くこともあるのです。

総理在任中に「増税メガネ」と揶揄やゆされたことについてあえて動画にしたのも、説明する努力の一つです。批判的なあだ名がついたのは、増税というテーマが多くの人にとって関心の高い課題だったから。であれば、なぜ増税の決断を下したのか、説明する努力は惜しみません。それが結果として多くの視聴者の目に届き、好評を博しているのなら、ありがたい限りです。

批判にも動じず常に笑顔でいるように見えるのは、政治家として、人とどう接するかを磨いてきたからでしょう。私は「春風接人しゅんぷうせつじん」を座右の銘にしています。江戸時代の儒学者・佐藤一斎の言葉で、「春風のなごやかさをもって人に応接する」という意味です。

(構成=梶原麻衣子 撮影=小田駿一)