死も穏やかに迎えられる「しょうがない」の力
人生の最期に、怒りや焦り、妬みといったネガティブな感情を、上手に手放して穏やかに逝く人がいる。その一方で、最後の最後まで手放せず、苦しみながら亡くなっていく人がいる。同じように死を迎えるのに、なぜこれほど違うのか。緩和ケア医として2000人を超える方を看取ってきて、私はその分かれ目をずっと見てきました。
死を前にして穏やかでいられる人と、そうでない人のどこに差があるのか。私は「死にたくない率」の差なのではないかと考えています。
もちろん、死にたい人なんて一人もいません。みんな死にたくない。けれども、「絶対に死にたくない、100%死にたくない」と生にしがみつこうとする人と、「しょうがない」と死を受け入れられる人がいる。単に気持ちの問題のように見えるかもしれません。しかし、死を前にしたときには、その差はとてつもなく大きな違いとして表れます。
絶対に死にたくない人は、とにかく医療にすがります。抗がん剤治療を受け、効かなくなったら次の抗がん剤、それも効かなければまた次。治るという夢にすがっていられるあいだは、死を考えずに済むからです。けれど、いったん再発してしまえば、世間で思われているほど治る見込みは高くない。それでも「きっと治る」と言い聞かせて頑張るうちに、抗がん剤で早く弱っていく。そしていよいよ「もう抗がん剤はやめましょう」と告げられると、「医者に見放された」と嘆くんです。
最初から死なずに済む方法なんてどこにもなかったのに、治療をやめると言われた途端に、すがっていた気持ちが恨みに変わり、怒りや辛さに変わる。死を前にして、ネガティブな感情に囚われてしまうのです。
反対に、穏やかに逝かれる方には、はっきりした共通点があります。本人や家族が死を前にしたとき、人はいつかは死ぬものだと自覚し、「しょうがない」と開き直れているんです。
多くの方が誤解されるのですが、人が穏やかでいられるかは、体の状態で決まるわけではありません。決め手は、心の状態にあります。病気が一つもなくたって、心が荒れていれば元気ではいられない。逆に、体がどれほど弱っていても、心が上を向いていれば、人は最後まで穏やかでいられる。私の仕事は、死を前にした方々の体を治すことではなく、心の状態を上げてさしあげることなんです。
では、どうやって心の状態を上げるのか。一番効くのは、家族と一緒に人生を振り返ることです。
「自分の人生はどうだったろうか」と独りで振り返っても意味がありません。3分もしたら、思考は続かず眠くなってしまうでしょう。ところが、人生をともに過ごしてきた家族と振り返ると、まるで違います。喧嘩ばかりだった夫婦も、会話のなかった夫婦も、いざ振り返ってみると、最後にはみんな「いい人生だった」と言うんですよ。
62歳のがん患者の女性がいらっしゃいました。初めてお会いしたときは、まだ抗がん剤を続けるかどうかで揺れておられた。娘さんと旦那さんは「やらないと死んでしまう」と思っているから、抗がん剤を続けさせたい。でも、本人は本当はやりたくない。
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