北米で高い人気を博す「カムリ」。生産をおこなうケンタッキー工場でもトヨタ生産方式が導入されている。作業者が働きやすく、やめる人が少ない。海を越えた地で、その仕組みはどう伝わり、根付いたのか――。

トヨタがアメリカ人に“Dojo”で教えていること

わたしがケンタッキー工場に取材に行ったのは2016年と翌17年のことで、今回は10年ぶりにオンラインで同工場におけるカムリの生産を詳細に見学した。北米市場ではカムリの人気が高く、これまで同市場のセダンとして23年連続、販売台数トップだった。アメリカではベストセラーかつロングセラーだ。2024年に発売されたカムリは11代目だ。11代目カムリになってからガソリン車は廃止され、すべてハイブリッド車となった。ケンタッキー工場でつくっているのもハイブリッド車である。

カムリはかつて堤工場で生産され、国内でも販売されていた。その後、海外だけの販売に変わったのである。だが、2026年から順次ケンタッキー工場で生産した車両を日本へ輸入する予定という発表があった。日本でアメリカ製のカムリが走ることになる。

カムリ
日本では2023年で製造終了し、以降は北米で生産。26年から逆輸入する形で日本での販売が復活する。

ケンタッキー工場の生産規模は世界有数だ。年間55万台の車両、60万基以上のエンジンを生産している。

トヨタがケンタッキー州ジョージタウンで同工場を起工したのは1985年、3年後の1988年5月にカムリをラインオフした。以後、同工場から出荷された車両は1400万台以上、現在のフルタイムの雇用者は9950人。カムリだけでなく、RAV4のハイブリッド、レクサスES、そして4気筒およびV6エンジンを製造していた。今後は生産車種も一部変更し、ハイランダーBEVの生産も予定している。

ケンタッキー工場ができた当時、日本から責任者として赴任していたのは後に社長、会長となる張富士夫である。張はトヨタ生産方式を体系化した大野耐一の弟子だった。張は赴任する前、大野を訪ねて助言を求めた。

「大野さん、アメリカにトヨタ生産方式を根付かせようとした時、気をつけることは何でしょうか?」

大野はひとこと答えた。

「アメリカ人が果たして、あんどんのひも(スイッチ)を引いてくれるかどうか」

ケンタッキー工場ができる前、トヨタはアメリカ人の作業者を日本に呼んで堤工場で実務研修をした。その時、「何か問題があったら、ひもスイッチを引くように」と教えたにもかかわらず、アメリカ人作業者はなかなか引こうとしなかった。つまり、生産ラインを止めることを躊躇したのである。

その頃も今でもトヨタ以外のアメリカの自動車工場では「現場の作業者の判断でラインを止める」ことはしてはならないことだった。

(イラストレーション=浅妻健司 写真提供=トヨタ自動車)

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