豊田章男が愛してやまないタイの「辛くないカレー」
“タイは自動車産業の集積地となっているため、「アジアのデトロイト」とも呼ばれている”
2025年の7月、わたしはタイの首都バンコクから東へ向かっていた。トヨタの現地法人、トヨタ・モーター・タイランドのバンポー工場を目指していたのである。そこでは2007年よりピックアップをベースとしたクルマを生産している。開発者に話を聞くために市内から郊外へ至るタイの高速と一般道を走った。1時間と少しの間、外を眺めていたら、市内と郊外では走っているクルマが違っていた。バンコクの中は乗用車が主役だ。目に付くのはトヨタ、ホンダといった日系メーカーの乗用車とトヨタ製のカローラ・アルティスのタクシー車両である。ヒョンデの車、BYDを始めとする中国製のバッテリーEVも時折、見かける。テスラ、ヨーロッパメーカーの乗用車はごくたまに出合う。市内の道にバスは走っているけれど、トラックは多くはない。
市内を出ると、見かける車の種類が違ってくる。乗用車ではなく、半数はピックアップもしくはトラックになる。トラックは日系メーカーだ。いすゞ、日野が多い。ピックアップはトヨタ製ハイラックスがもっとも多く、次が、いすゞと三菱のそれだ。フォード製の大型ピックアップにも出合うことがある。中国メーカーのピックアップも導入していると聞いたが、バンポー工場の周辺道路では一台も見かけなかった。
要はタイの郊外と地方でもっとも普及しているクルマは日系メーカーのピックアップなのである。事実、同国における日系メーカーのピックアップのシェアは9割前後だ(野村総合研究所タイのアナリスト、山本肇の話による)。
日本ではあまり走っていないピックアップだけれど、タイ、東南アジアの地方へ行くと必需品になっている。単なる移動手段ではなく生活に欠かせないモビリティだ。農家は生産したものを市場に運ぶ。中小企業の人たちは製造した製品を納入先へ運ぶ。また、荷台に厨房設備を架装して、麺や弁当を売る店舗にしている人たちもいる。キャンピングカーにする人もいる。荷台に椅子やベンチを取り付けて車両に仕立てる人だっている。さまざまな形に架装して生活に使ったり、あるいは仕事に利用している。乗用車、トラックは人が移動に使ったり、積み荷を運ぶだけと目的が決まっている。だが、ピックアップは両方の使い方ができる一石二鳥のモビリティだ。
バンポー工場の近くで何台も見かけたのが果物の王様ドリアンを満載したハイラックスだった。荷台にドリアンを積み上げて目的地に向けて走っていた。決して、よろよろと走行しているわけではない。農村地帯を悠々と走っていたのである。ドリアンは国内消費もされるが、価格が高いためタイにとっては大切な輸出用の商品でもある。そして、輸出先は中国だ。輸出の9割以上は中国向けだ。前述したが、中国の自動車メーカーもピックアップを売り出している。ところが、タイではまったく普及していない。中国の消費者が大好きなドリアンを運ぶのは中国メーカーのピックアップではない。日本メーカーのそれ、なかでもハイラックスだ。
タイの自動車マーケットについて概要を記しておく。2024年、同国の自動車生産台数は146万8997台で前年に対して19.9%減だった。2025年は約145万台で、そのうち約50万台が国内販売、約95万台は輸出向けだ。(ジェトロ「2025年の自動車生産台数」)
タイは自動車産業の集積地となっているため、「アジアのデトロイト」とも呼ばれている。
“豊田章男会長にとって、IMVはキャリアのなかでも最も大切な思い出のひとつです”
タイの主産業といえば農業と観光業というイメージがあるが、自動車産業も忘れてはならない。
タイで会ったトヨタ・モーター・タイランド社長の山下典昭は2023年のハイラックス・チャンプの発表会時や取材時ではタイの自動車産業とトヨタの関係について、こう話した。
「国内販売に加え、当社は世界120カ国以上に400万台を超えるIMVを輸出しています。累計ではIMVの生産台数は808万台で、そのうち輸出した台数は476万台になります。高い現地調達率と相まって、IMVはタイの経済成長に貢献し、雇用創出を実現しました。私は、タイのお客様からのIMVとトヨタへの信頼、そしてタイ政府の支援が実現した結果だと確信しています。そのため、IMVは『タイの国民車』と呼ばれ、タイの人々とトヨタとの間に、互いに感謝の気持ちを表現できる関係が築かれたのです」
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