アメリカからのライバル登場ネットディーラーとの戦いを超えて
1999年、日本の自動車販売店に衝撃が走った。「黒船がやってきた」というニュースになった。それはアメリカで急成長していたネットディーラーが日本に上陸したからだった。ネットディーラーは新車を一括見積もりする価格比較サイトで、その年、日本法人を設立して営業を始めたのはオートバイテル、カーポイントという大手2社だった。
結果としては両社ともに日本では事業を成功させることはできなかった。だが、当時、日本の販売店はネットディーラーを極度に警戒したのだった。両社がうまくいかなかったのは日米の自動車販売店事情が異なっていたことにある。大きな違いのひとつは日本の販売店は専売店であることだ。トヨタ販売店はトヨタ車だけを売る。日産の販売店は日産の車だけを売る。一方、アメリカはひとつの販売店がGM、フォード、トヨタも売るマルチ販売店が多数を占める。また、日本の販売店は各メーカーともテリトリー制度が堅持されている。販売店は責任地域以外で営業施設を設置することはできない。価格比較サイトは中古車、外国車には有効だが、国内メーカーの新車については役に立つとは言えなかった。
ただ、1999年当時は「アメリカのネットディーラーは巨人だ」「資本の力で日本の自動車販売店はねじ伏せられてしまう」といった風評だった。同時にアメリカ発だけでなく、日本でも新車直販、輸入代行、中古車価格比較サイトなどのサービスが次々と現れてきた。販売店はオンライン販売の業者と競争することになったのだった。
外資ネットディーラーのうち、カーポイント日本法人はトヨタとの提携を求め、幹部に接触してきた。カーポイントはアメリカ市場では月に300万人以上の顧客を獲得していた。そして、提携する2500社以上のディーラー(販売店)に対して毎月4.5億ドル以上の取引高をもたらしていたのである。カーポイントの日本法人にはソフトバンク、マイクロソフトが出資していて、孫正義が積極的に後押ししていた。孫正義は自らトヨタの幹部役員に連絡し、カーポイントとの提携を強烈に訴えてきた。
危機感を抱いたのが豊田章男だった。もし、トヨタとカーポイントが提携したら、オンラインサービスを始めていたGazooは隅に追いやられてしまう。トヨタが自身でやるべきコネクティッド戦略を他社に渡すことになってしまう。顧客とのつながりを深めることが章男の考えだった。カーポイントとの提携はそれを否定する道だったのである。ただし、提携話が出た頃、彼は日本にはいなかった。1998年からアメリカにあるトヨタとGMの合弁会社、NUMMI(ヌーミ:New United Motor Manufacturing, Inc.)に赴任し、副社長を務めていたのである。
章男が不在の間、販売改善やトヨタコネクティッドの責任者となった友山はカーポイントの動向を察知し、アメリカにいた章男に「どうすればいいか」と指示を仰いだ。
章男は入社以来、初めて父親の章一郎に直接、訴えることにした。名誉会長だった豊田章一郎は友山を呼んだ。
章一郎は友山に尋ねた。
「なぜカーポイントと提携してはいけないのか。なぜGazooなのか。Gazooでなくてはいけないのか?」
友山はここが大事だと汗を流しながら、必死になって話をした。
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