胃や大腸、卵巣などのがんが腹膜全体に散らばる「腹膜播種」。日本では「もうできることはありません」と告げられ、治療を諦める患者が後を絶たない。医療ジャーナリストの木原洋美さんは「腹膜播種に医師自身が立ち向かおうとしない構造的な問題がある。しかし最近、患者にとってようやく希望の光が見えてきた」という――。
重篤な状態でベッドに横たわり、点滴チューブに接続された入院患者
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「何もしないで死を待つなんてできない」

九州地方在住のハナエさん(仮名50代)は2月、“藁にもすがる思い”で上京した。

およそ半年前、胃がんの診断を受けて胃の4分の3を切除したが再発。CT検査の結果、腹膜播種ふくまくはしゅが見つかり、主治医から「もうできることはありません」と宣告された。

腹膜播種は、胃や大腸、卵巣、膵臓などの原発がんからがん細胞が腹腔内にこぼれ落ち、「種をまく」ように腹膜全体に散らばってしまう現象だ。

診断が難しい上に、手術での切除は困難で、化学療法(抗がん剤)も効きにくいことから、特に胃がん、大腸がんでは「播種があったら諦める」傾向が日本ではある。ハナエさんの主治医もそうだったのだろう。

それから1カ月、インターネットで医療情報を検索しまくったハナエさんは、有償治験という特殊な形で国から許された“認可未満”の治療法にたどり着いた。提供するのは有名な大学病院で費用は1クール1万円ほど。重篤な副作用の報告はなく、半世紀で40万人以上が受けたというその治療法は、超高額な自由診療が乱立するがん領域で、唯一「怪しくない」と感じられた。

無論、起死回生は期待していない。

「効かないかもしれない。でも、何もしないで死を待つなんてできません。私はまだ歩けるし、動けるし、生きています。10代の娘もいます。今、死ぬわけにはいかないんです。私はどうしたらいいんでしょうか」

相談を受け、筆者が紹介したのが、国立国際医療センターの「腹膜センター」だった。

余命宣告の5カ月後に亡くなった兄

胃がんや大腸がん、卵巣がんなどの患者にとって、腹膜播種は長らく“終末”を意味してきた。

がん細胞が腹腔内にこぼれ落ち、腹膜全体に散らばるこの状態は、診断が難しく、手術も抗がん剤も効きにくい。

事実、筆者の兄は3年前、大腸がんの腹膜播種が見つかって「余命半年」の宣告を受けた後、5カ月で亡くなった。切除手術を強く勧めてきた“名医”は、お腹を切り開き、腹膜播種を見つけると即座に手術から撤退。兄が麻酔から目覚めた時は既に、医局で一番若い医師に主治医は交代しており、以後、遺体となって退院する時まで名医は一度も病室に顔を見せなかった。関東地方の大学病院での話だ。