後日談――情報の壁に阻まれ、“届かなかった一歩”
腹膜センターへの紹介を申し出ると、ハナエさんは涙を流して喜んでくれた。諦めるしかない状況は、患者の身体が蝕まれる前に、心ががんで倒れてしまう。
筆者が状況を伝えると、合田医師はその日のうちに、医学的に可能な選択肢と受診の流れを簡潔に示してくれた。それは特別扱いではなく、相談があれば誰に対しても行う標準的な対応だという。
ハナエさんは安堵し、急いで外来予約を取った。しかし当日、彼女はインフルエンザで体調を崩して予約をキャンセルし、その後の連絡はぱったり途絶えた。
この出来事は、個人の不運というより、腹膜播種の治療情報が患者に届きにくいという構造的な問題を象徴しているように思う。
腹膜センターの設立には、こうした“情報の壁”を壊す狙いもある。
がんと一緒に戦ってくれる医師がいる
腹膜播種と告げられた瞬間、多くの患者は深い絶望に沈む。
だが今年、腹膜疾患に特化した医療を提供する公的な拠点病院が日本に誕生した。
消化器がんに限らず、腹膜に関わるあらゆる疾患に対して、国内最高峰の体制で臨む腹膜センターだ。
その拠点は、全国の医療機関とつながり、患者が“正しい場所に辿り着ける社会”をつくろうとしている。
もし読者の周囲に、「もう治療法はありません」と言われた患者や家族がいたら――どうか伝えてほしい。
「まだ、諦めなくていい。一緒に腹膜播種と戦ってくれる医師はいるから」と。


