それでも、彼は歩みを止めなかった。
「私は今、大腸がん腹膜播種に対するHIPEC復活をめざして準備しています。腹膜疾患の治療を、日本でも前に進めなければならない」
その信念が、腹膜センター設立の原動力となった。
欧米で普及する治療法を、日本で
腹膜センターで、合田医師が新たに挑むのが、欧米で急速に普及する新しい治療法「PIPAC(加圧腹腔内エアロゾル化学療法)」だ。
PIPACは、従来の腹腔内化学療法を物理学的に進化させた治療で、腹膜播種に対する“第三の選択肢”として期待されている。
●PIPACの優位なポイント①
抗がん剤を霧状(エアロゾル)にすることで腹膜全体に均一に届けることができる。
液体の抗がん剤は重力で下に溜まり、腹膜の凹凸に入り込まないが、PIPACなら抗がん剤を5〜50ミクロンの微細な霧にして散布し、腹腔内に均一に広げることができる。
●PIPACの優位なポイント②
加圧して噴霧することで薬剤を腹膜に深く浸透させられる。
腹腔内を10〜12mmHgに加圧することで、薬剤が腹膜表面に押し付けられるため、浸透深度は従来の3〜10倍に増えると報告されている。
●PIPACの優位なポイント③
抗がん剤の使用量が、全身化学療法の5〜10%の低用量で済む。
局所濃度は高いまま、全身副作用は少ない。
“効かせたい場所には濃く、体全体には薄く”という理想的な薬剤分布が得られる。
●PIPACの優位なポイント④
腹腔鏡で行うため、繰り返し施行できる。6〜8週間ごとに施行可能なことから、
◎腫瘍の進行抑制
◎全身化学療法の補強
◎状態改善後のCRS+HIPECへの橋渡し
といった治療戦略の幅が広がる。
●欧州ではすでに臨床応用が進む
卵巣がん・胃がん・大腸がんの腹膜転移に対して、腫瘍縮小や症状改善の症例が多数報告されている。
合田医師は言う。
「まずは当院で安全に施行できることを証明し、先進医療につなげたい。その準備として昨年、センターの医療チームがフランスに赴き、PIPACの開始に必須であるトレーニングコースの受講とライセンスを取得しました。
今後数カ月以内に、当院の倫理委員会の承認を受けて、5人の患者さん限定で『実施可能性評価試験』を行います」
もちろん、早く先進医療として認められてほしいが、これまでは諦めるしかなかった日本でPIPAC導入を目指す公的な病院が現れたこと自体が、腹膜播種の患者にとって大きな希望なのではないだろうか。

