「現場に行け、現場で考えろ」 ジャパンタクシーが乗りやすいワケ
“乗り心地は利用客、ドライバー向けの改善だった。一方、耐久性は主にタクシー会社が気にする点である”
粥川は明確に言った。
「トヨタは創業者の豊田喜一郎が最初の乗用車、トヨダAA型を開発した時から、日本人のために国産車をつくると決めていました。タクシーの車両も当初からつくっています。創業した頃からタクシー事業者のみなさまからフィードバックをいただき、車両の進化につなげてきました。タクシー事業者とトヨタは、つながりが強く、共に歩んできたのです。
僕らはこのクルマを企画するために全国で調査をしました。普通のクルマの新型車でも調査はやりますが、ジャパンタクシーほどはやらないと思います。大学の先生にお話を聞きに行ったり、インターネットでアンケートを取りました。『現場に行け、現場で考えろ』がトヨタの決まり事ですから、観光地から香港の現場までタクシーがどう使われているのかを定点観測しました。私を含めスタッフは実際にタクシーの助手席に乗せてもらいました。運転することはできないので、研修員という腕章をしたスタッフが交替しながら24時間、助手席で密着取材しました。
その体験は車両の構造にも結び付いています。たとえばドライバーのシートです。ドライバーは料金の受け渡しでは、身体をひねります。腰によくないですよね。そこで、ジャパンタクシーの運転席は左に向きやすくしました。こうした細かいくふうはタクシーに乗り込んで観察しなければわからないことでした。僕らはとことんタクシーに向いたクルマをつくったと思います」
粥川たちスタッフは改善を繰り返した。現場で知ったことを反映させたモックアップをつくり、実際にタクシードライバー、高齢者に試乗してもらった。
乗用車の開発であればユーザーだけを見ればいい。ところが、タクシー専用車をつくろうと思ったら、タクシー会社、ドライバー、ユーザーの3方向のバランスを取らなくてはならない。ドライバーとユーザーのことを考えて内装やシートにお金をかけすぎたらタクシー会社は買ってくれない。お金をあまりかけずに燃費がよく、それでいてドライバーとユーザーにとって乗り心地のいい車両にしなければならない。バランスが大事なのである。
「タクシーのドライバーは歩合制の給料です。お客さんが乗って、営業成績が上がらないと給料に直結します。ですから、まず利用者を増やすために、利用者が乗りたくなるようなデザインにしました。それはすなわち腰をかがめなくても乗り込める形です。車高を上げて、ステップを低くしたんです」(粥川)
乗り心地は利用客、ドライバー向けの改善だった。一方、耐久性は主にタクシー会社が気にする点である。
通常、タクシーは1台の車両を早番(昼)、遅番(夜)のドライバーが交替して使う。タクシーは年中、走りっぱなしだから、1日に最大300キロ、1年で10万キロは走破する。香港のケースでは1年に16万キロ走るタクシーがあり、そのコンフォートタクシーは累計距離で200万キロも走って、なお現役だった。
日本国内では乗用車をタクシーとして使った場合、40万キロから50万キロで売りに出す。すると、地方のタクシー会社が買い取り、また40万キロから50万キロくらいは走る。つまり、タクシーの開発は一般の乗用車とはかけ離れた使われ方を想定しなければならない。そこで、粥川たちはジャパンタクシーの耐久性を高めた。丈夫な構造とし、加えて、リペアビリティにも配慮した。
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