タイの道を走ると、頻繁に見かけるトヨタ車「ハイラックス」。2023年に現地で発売されたハイラックス・チャンプは、工場では7割までしかつくらないという。なぜ「未完成」のクルマを売るのか――。

ハイラックス・チャンプの開発は日本のクルマづくりとどう違うのか

“ピックアップはタイ人にとっていちばん長く乗るクルマです。タイ人の生活に寄り添うパートナーなんです”

トヨタのIMVシリーズのうち、ゼロと呼ばれているのがピックアップトラックのハイラックス・チャンプだ。開発はコロナ禍の時代、2020年後半には先行してスタートしている。チーフエンジニアは日本に留学経験のあるタイ人、ジュラチャート・ジョンユースックである。職場の日本人、タイ人は彼のことをジラさんと呼ぶ。

彼が卒業したのは東京工業大学(現・東京科学大学)だ。

開口一番「私のことはジラさんと呼んでください」と名乗った。それも満面の笑みである。微笑みの国、タイのエンジニアだ。

ジラさんは言った。

「ハイラックス・チャンプはトヨタ生産方式を活用した開発を行いました。重要なのは現場へ行くこと。開発者は現場から離れていることが多い。私たちはお客さまに会いに行きました。お客さまが、どんな使い方をしているのかを見てきたのです。コロナ禍でしたからマスクをしてタイの北のほうから南まで出かけていって、お客さまに新型のハイラックスに対する要望を直接、聞きました。私と私のチーム全員で行きました。タイ以外にもインドネシアとフィリピンにも行っています」

現在タイだけで販売されているハイラックス・チャンプはユーザーの暮らしに合わせた拡張性の豊かさが特徴である
現在タイだけで販売されているハイラックス・チャンプはユーザーの暮らしに合わせた拡張性の豊かさが特徴である。荷台部分に農作物を載せて運搬したり、キッチンカー仕様にするなど、ユーザーが求める用途に合わせて架装できる設計になっている。
現在タイだけで販売されているハイラックス・チャンプはユーザーの暮らしに合わせた拡張性の豊かさが特徴である。
現在タイだけで販売されているハイラックス・チャンプはユーザーの暮らしに合わせた拡張性の豊かさが特徴である。

ジラさんたちはクルマの使用実態を見に行った。タイのユーザーは「ここを改造してほしい」とジラさんたちに伝えた。ジラさんたちはクルマを使う当事者の気持ちになって一から開発を進めた。

彼自身、こう思い出す。

「タイにはナショナルカーコンセプトがあります。庶民はまずバイクを買います。バイクを仕事のために使います。そして次はピックアップを買う。仕事にもプライベートにも使います。そうして、お金を儲けたら初めて乗用車を買います。乗用車を買っても、ピックアップは手放さないで仕事のために使います。これがタイ人が乗るモビリティの変遷です。ピックアップはタイ人にとっていちばん長く乗るクルマです。タイ人の生活に寄り添うパートナーなんです。

庶民がピックアップを買うのは税金が安いこともあります。乗用車であれば税金は20%からですが、ハイラックスだと2%です。乗用車の10分の1です。私たちが開発したのは手ごろな値段で入手できるクルマで、基本的には商用を目的としたものです。一般にタイではピックアップを架装して使います。自動車会社は架装していない荷台のベースで工場から出荷します。それをボディビルダーと呼ばれる架装業者が荷台に架装用部品などを取り付けるのです」

彼の話にあるように、タイでピックアップを買った人は目的に合わせて架装する。ボディビルダーは荷台に陳列台をつくったり、熱源やキッチンを組み込む。ドリアンを大量に積みたい人には頑丈でスペースの広い荷台をつくる。ジラさんたちは開発前に10社のボディビルダーと一緒にユーザーを訪ねて用途の調査をした。

(イラストレーション=浅妻健司 写真提供=トヨタ自動車)

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