個人で成績を競う営業の世界では、トップセールスほどノウハウを抱え込む。その常識を覆し、店全体を成長させたのが、福岡のトヨタ販売店だ。鍵は独自の「チーム制」だった――。

若者にシエンタを紹介しシニアにはサブスクを勧める理由

チーム制に移る場合、「気を付けなくてはいけないことがあります」と池田は言った。

「チーム制になってから営業は車を売る際のセールストークも変わってきたのです。それは、お客様の車に対する好みが変わってきたからだと思います。

以前は、いつかクラウンに乗りたい、スポーツカーに乗りたいという若い人が大勢いました。ですが、今の若い人のほとんどは『車は移動できればそれでいい』という方なんです。ですから、僕らは車に興味を持ってもらうために、車の良さとか、どこがどういいのかを積極的に発信していかなくては車は売れません。発信が上手な営業でないとダメなんです。

たとえば、車を売るのが上手な営業は『お客様、お若いから、今回はシエンタにしておいて、余裕が出てからアルファードなどを考えませんか?』といった長期を見据えた提案をします。2台目3台目まで考えて営業するのがプロなんです。先々のことを読んで、お客様の状況に合わせた提案をする。そうすればお客様からの信頼も高くなります。値段だけの勝負をしていたら、お客様との関係性が希薄になってしまって、長くは続けられません。

これから僕らが真剣に考えていかなくてはいけないのは免許を返納される方との関係性です。一生、車に乗るという方がこれまでは多かった。地方では車がなければ生活できませんからね。それが地方でも、『家族が反対するから免許を返納する』人が増えてきました。これからはもっと増えていくでしょう。そういう方にはどうするか。私たちは『KINTO』というサブスクをお勧めする。あるいは残価設定型の支払い方法をご説明します。残価設定型のなかには初回に大きく払い、3年または5年後に残りを払いましょうといった支払い方もあります。残価設定型であれば、大きな事故や極端に長い距離を走っていなければ返却もできます。現在、当社で売った車の6割は残価設定型になっています。

私たちが現金一括より、残価設定型を勧めるのは車の安全性がどんどん進歩していくからです。1台を10年乗り続けるよりも、残価設定型で乗っていただいたほうが車の進化についていける。なおかつ乗る方の状況に応じて車種を変えられる。家族と乗っている時はミニバン、家族が巣立ったらSUVにしたり……。どちらもリセールバリューがあります。3年乗って6割の価値が残る場合もあります。車をやめる方でも残価設定型にする人が増えています」

一店舗がまるごとサッカーチーム フォワードからディフェンダーまで

“町ですれ違った車のナンバーを見たら、「ああ、あの人だ」とわかるようになることです”

池田は次々と手を打っていった。

「営業スタッフの仕事が多すぎてオーバーフローしていたので、サービスも業務も巻き込まないと仕事は楽にならないんです。次郎丸店でチーム制をやるにあたってまず毎週、全員でミーティングをしました。それまでは営業スタッフは営業スタッフだけで、サービスはサービスだけでといったミーティングだったのを変えました。ミーティング時間は全員が参加できる時間です。それも夕方にしました。朝はエンジニアにはもう仕事があったんです。

営業が担当しているお客様の数って、トヨタ店の平均でひとりあたり300から500あるんです。もちろん、全員とコミュニケーションはできません。でも、それだけの数をひとりでやっていたら、休みなんて取れません。ひとりできちんとしたリレーションを取ろうとしたら、200から300が限度だと思います。それくらいであればお客様の顔を思い浮かべることができて、しかも、所有されている車もわかります。いつ車検が来るのかもリストを見なくともわかる。それが営業だと思います。営業って毎日、顧客リストを見ているんです。自分が売った車、お客様の顔は忘れません。それが営業だと思いますし、そうならないとダメです。町ですれ違った車のナンバーを見たら、『ああ、あの人だ』とわかるようになることです」

チーム制とは簡単に言えば、営業、サービス、業務がそれぞれの仕事を補うこと。かつて営業はひとりで新規客を開拓しながら、既存客の点検入庫を誘致した。車が売れたら登録書類と車庫証明などの書類を営業スタッフが自身で作成していた。新規客の開発に時間を使ってしまったら、点検のための入庫誘致ができなくなり、サービスの人間は暇を持て余してしまうといったことがあった。業務は電話で問い合わせをしてきた客に応えたり、店舗に来るための予約を取ったりしていた。

(イラストレーション=浅妻健司 撮影=本誌編集部)

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