中高年世代が若者とうまくコミュニケーションを取るには、どうすればいいのか。健康社会学者の河合薫さんに、年齢の壁を越える言葉のかけ方を聞いた――。

予防線を張ってから意見を言うおじさんたち

「老害意見かもしれないけど……」。SNSで、わざわざそんな前置きをしてから自分の考えを述べる中高年の投稿を見かけたことはないでしょうか。「老害」という言葉が今のように広がった背景には、Z世代と呼ばれる若者たちが、コロナ禍を境に注目を浴びるようになったことが大きいと私は見ています。

河合 薫さん
河合 薫 Kaoru Kawai
健康社会学者(Ph.D.)。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸(ANA)に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。2007年、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。産業ストレスやポジティブ心理学など健康生成論の視点から、「人間の生きる力」に着目した調査研究を幅広く進めている。

メディアは「Z世代vs.老害」という対立構造をつくり、なんでも若者の意見を聞こうと持ち上げてきました。意見を聞くこと自体は大切ですが、あたかもZ世代がこれからのスタンダードであるかのような空気が生まれ、「働かないおじさん」と呼ばれるシニア世代は、言いたいことがあっても口に出せなくなってきたのです。

そんな中で、シニアが卑屈化する場面も増えてきました。私が「老害」という言葉に注目するようになった2023年頃、SNSで目に留まったのが、冒頭でも触れた「老害意見」という言葉です。

そうして控えめに切り出しても、「そう言っている時点で老害だろう」という反応が返ってくる。老害呼ばわりされないための防衛線を張りたくなるシニアの気持ちはよくわかりますが、そう言われても若者としては、どうリアクションしていいか困ってしまうというのが本音でしょう。

若者だって、実は年上と話したい

しかし、卑屈になる前に考えてみてほしいのです。本当に若者たちは、シニアを十把一絡げで「老害」と見なしているのでしょうか?

「あなたの会社に働かないおじさんはいますか」という質問には、「いる」と答える人が圧倒的に多い。ところが、若い人に「一緒に働いている中高年は働かないおじさんですか」と尋ねると、「ノー」と答える人が出てきます。

つまり、イメージとしての「働かないおじさん」と、日常的に顔を合わせている人への評価の間には、ギャップがあるのです。きちんと顔が見える相手としてコミュニケーションを取っていれば、シニアであるというだけで老害扱いされたりはしません。

私は大学院生の頃からフィールドワークでビジネスパーソンへのインタビューを続けてきましたが、時代が変わっても人間の心はあまり変わらないと感じています。変わったのは、表現の仕方やコミュニケーションの取り方だけ。私たちが若い頃、上司に「飲みに行こう」と誘われると、声をかけてもらえたこと自体が嬉しかったものです。武勇伝を聞かされるのもそれなりに楽しかったし、少し褒めてもらえたり、悩みを聞いてもらえたりすると元気が出ました。

いまは上の世代がハラスメントになるのではと遠慮して飲みに誘わなくなったといいますが、若い人たちに本音を聞くと、「もっと教えてほしいし、もっと話したい。飲みに行くのも嫌じゃない」という人が結構いるのです。

そもそも若者から見れば、ある層より上の世代は「全部同じ」です。私が20代で「ニュースステーション」の仕事をしていた頃、おじさんディレクターに「河合、俺いくつだと思う?」と聞かれ、「45ぐらいですかね」と答えたら「俺、45に見える?」と喜ばれたことがあります。当時の私には30歳以上はみんな同じおじさん、おばさん。45歳と55歳の違いもわかりませんでした。いまの若者も同じでしょう。ですから、「自分は60代だから老害世代だ」などと自分からレッテルを貼り、若者と距離を置こうとするのは、まるで的はずれだと思うのです。

(構成=プレジデント編集部)