商談ではやや速めに、部下の相談には少しゆっくり――。話す速度や声の抑揚で、相手が抱く人柄の印象は大きく変わる。速さや抑揚が「デキる人」「相談しやすい人」を演出する仕組みを、音声心理学の聴覚実験データから読み解いた。

「理想的な声」はないが与える印象は変えられる

実際に会ったことはないのに、電話先の声を聞いて「この人はしっかりしている」「信頼できそうだ」などと、相手の性格を想像したことはないでしょうか。声や話し方がその人の印象を大きく左右することを、多くの方が体感的に理解していると思います。

だからといって、話し方にコンプレックスを持っている人が悲観的になる必要はありません。実は、誰もが好感を抱くような「理想的な声」や「オールマイティな声」は存在しません。それでも相手に与える印象をある程度コントロールすることは可能だからです。

私は大学院の博士課程まで教育心理学を専攻しながら、「音声学」や「音声情報処理技術」を学び、レコーディング・エンジニアの資格も取得しました。これらの経験を土台に、現在は英語リスニングテストの研究開発を行いつつ、ライフワークとして音声コミュニケーションの研究にも従事しています。ここでは、話し方が人に与える印象に関する心理学研究の内容をご紹介します。

心理学では、人間の性格を「外向性・情緒不安定性・経験への開放性・勤勉性・協調性」の5つの主要因子で捉える理論モデルがあります。一言でいうと「人間の基本的な性格は5つの特性から成り立つ」という考え方で、世界の学術研究でも「ビッグファイブ」として知られており、自己理解や心理テストなどに活用されています。

それぞれのイメージを説明すると、「外向性」は陽気で社交的、人と話すのが好きな特性で、「情緒不安定性」は悩みがちで不安になりやすい特性。「経験への開放性」は知的好奇心が旺盛で独創的・進歩的。「勤勉性」は責任感があり、まじめで計画的。「協調性」は温和で親切、人と仲良く調和できる特性です。誰の中にもすべての特性があり、また「高ければ良くて、低ければ悪い」という基準でもありません。ただし、人によってそれぞれの特性の分量が異なっていて、それらの組み合わせで性格や人柄が成り立っていると考えます。そして、私たちは他者の人柄について、半ば無意識的にこの5つの特性で評価しています。

声から想起される話し手の人柄の印象も、このビッグファイブの観点で評価できるのではないか。話し方の特徴によって目的に応じた性格印象のコントロールができるのではないか。私たちはそのように考えて、検証しました。

速く話すと「明るく勤勉」ゆっくりだと「安心感」が

まず注目したのは「話す速度」が聞き手に与える印象です。私たちは8つのスクリプトを日本語と英語にした16の文章を用意し、日本語話者4人と英語話者4人(男女各2人)による音声を、5段階の発話速度に変換。それを376人の大学生(男性243人、女性133人)に聞かせる聴覚実験を行いました。この音声は、話す内容や抑揚(イントネーション)、音量は同じで、話すスピードだけを5段階に変えたものです。

結果は、やや速く話したときに勤勉性が最も高く評価され、外向性や経験への開放性も標準から速めに話したほうが高いというものでした。逆に少しゆっくり話すと、協調性があると感じさせることがわかりました。情緒不安定性については、速度による印象の変化は顕著ではありませんでした。

つまり、速めに話すとまじめでよく働き、しかも明るい人柄で知的好奇心も高い人という印象を与え、ゆっくり話すと聞き手に共感的で安心させる印象を与えるということです。

ただし、過ぎたるは及ばざるがごとしで、情緒不安定性以外の4特性は、速度が「最も速い/最も遅い」では急激に評価を下げています。ゆっくり話しすぎるとルーズ(勤勉性が低い)で陰気(外向性が低い)な印象を与え、経験への開放性の評価も下がります。一方、協調性は速すぎる発話ではぐっと評価を押し下げることがわかります。確かに、ただ早口でペラペラと話しているだけでは相手への配慮を感じさせず、評価が下がるのもうなずけます。