シジュウカラは単語と文法で会話するシジュウカラという鳥をご存じですか。頭が黒く、頬が白く、胸には黒いネクタイのような模様が走っています。その模様が太いのがオスで、細いのがメス。珍しい鳥ではなく、公園や住宅街の庭先にも、たいてい飛んでいます。
この鳥を研究しはじめて、今年で20年になります。もともとバードウオッチングが趣味で、いろいろな鳥の動きを眺めたり、鳴き声を録音したりしていました。続けるうちに、とりわけシジュウカラの鳴き声の種類が多いことに気がつきました。どうやって声を使い分けているのだろう。その疑問が、研究のはじまりです。
フィールドは長野県・軽井沢の森です。国内有数の野鳥スポットであるこの森に、シジュウカラの自然な暮らしを観察するため、今も通っています。
森では、タカが上空に現れたときは「ヒヒヒ」、ヘビが近づいてきたときは「ジャージャー」と、天敵の種類によって鳴き声が変わることがわかります。たんに恐怖から出る声なら、相手が何であれ同じ鳴き方になるはず。だとすれば、シジュウカラは声を使い分けて、外の世界にあるものを指し示しているのではないか。そう考えるようになりました。
ただ、自分がそう思うだけでは学問になりません。論文で、誰もが納得できるように証明する必要があります。
動物行動学では長く、鳥の鳴き声は「シグナル」と呼ばれてきました。相手の行動を操作するための信号だ、という捉え方です。声を聞いた鳥が頭の中で天敵の姿を思い描いている、という仮説は誰も立てておらず、それを確かめる方法もありませんでした。
そこで考えたのが「見間違い実験」です。「ジャージャー」が本当に「ヘビ」を指す言葉なら、それを聞いた鳥は、ヘビでないものをヘビと見間違えるはずです。まず、スピーカーから「ジャージャー」を再生する。声に寄ってきたシジュウカラの前で、細い紐で結んだ枝を、木の幹に沿って下から上へ、するすると引き上げる。ヘビのような動きです。するとシジュウカラは枝に近づき、確かめるように見つめます。ところが、同じ枝を左右に大きく揺らしてヘビらしくない動きにすると、まったく関心を示しません。他の意味の鳴き声を流した場合、枝を這わせても見にきません。
つまり彼らは、「何か動くものに注意しろ」という合図として声を聞いているのではない。「ジャージャー」を聞いた瞬間にヘビを思い浮かべ、それらしいものを探していたのです。
こうした実験が形になるまでには、長い時間がかかります。たとえば餌を見つけたときの声も、毎回同じ一羽が鳴いているだけなら、その個体の癖かもしれない。「シジュウカラの言葉」と言うには、どの個体も共通して使うことを確かめる必要があります。そこで環境省の許可を得てたくさんのシジュウカラを捕獲し、一羽ずつ見分けられるよう足環をつけました。
さらに調べると、シジュウカラは単語を組み合わせて使っていることがわかってきました。「ピーツピ」は警戒しろ、「ヂヂヂヂ」は集まれ。この2つをつなげて「ピーツピ・ヂヂヂヂ」と鳴くと、「警戒して・集まれ」という意味になります。天敵を見つけた鳥がこう鳴くと、その仲間は周囲に気をつけながら集まり、みんなで敵を追い払います。単語が2つで、文になっているわけです。
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