「死にきれず、生きてもいない」新首都
ヌサンタラに対する民間投資の停滞も深刻だ。インドネシア政府はもともと建設費の80%を民間資本で賄うと公言していたが、香港英字紙のサウスチャイナ・モーニングポストによると、2024年1月時点の累計投資額は30億ドル(約4890億円)と、総事業費の10分の1にとどまった。
こうした資金難に加え、プラボウォ氏の行動にも消極姿勢がにじむ。
大統領として初めて建設地を訪れたのは今年1月で、就任から1年以上が経ってからだったとNPRは報じた。ガーディアンによると、新首都建設を監督するヌサンタラ首都庁の長官と副長官は、2024年に辞任している。
実は新首都の位置づけに関しても、水面下で格下げが進んでいた。
プラボウォ氏は昨年5月、ヌサンタラを従来の「国家首都」から、より限定的な「政治首都」へ変更する大統領令に署名した。ところがその事実は、昨年9月まで伏せられていた。
東カリマンタン州ムラワルマン大学の憲法学者ヘルディアンシャー・ハムザ氏はガーディアンの取材に対し、この位置づけは、「インドネシアの法律上、意味をなさない」と指摘。「新首都はプラボウォにとって優先課題ではない。政治的には、死にきれず、生きてもいない状態だ」とみる。
式典を走行した中国製の自律走行車両
もっとも、プロジェクトが完全に凍結されたわけではない。
2028年にはジャカルタを法律上の首都として残しつつ、ヌサンタラに行政・立法・司法を置く「二つの首都」体制へ移行する見通しだと、ジャカルタ・グローブは伝える。
NPRによると、今年中に4100人の公務員を追加で移す計画もあり、ヌサンタラ首都庁のバスキ・ハディムルジョノ長官は、「心配ない、事業は継続される」と語っている。
技術面でも困難が続く。ヌサンタラの先進性を世界に示すはずだった目玉事業は、すでに頓挫した。
計画の核に据えられていたのが、鉄道車両製造で世界大手の中国中車(CRRC)グループ傘下、中車青島四方機車車両(以下、中車四方)製の自律走行車両「ART(Autonomous Rail Transit)」だ。全長32メートル、3両編成で最大250人を乗せる電動車両で、架線も従来型のレールも運転手も要らない自動運転を謳う。
米政府系国際放送局のボイス・オブ・アメリカによると、ジョコウィ氏はARTを都市鉄道(MRT)やライトレール(LRT)より安価だと強調し、1編成あたり約470万ドル(約7億6600万円)と述べていた。ジャカルタの渋滞の反省に立ち、陸上交通の8割を公共交通が担う都市計画としていたが、ARTはその意味でも大きな役割を担うはずだった。
2024年8月、ヌサンタラで開催されたインドネシア建国79周年の独立記念日式典で、ARTは幹線道路を走行し、来賓の移動手段として注目を集めた。赤道直下の新都市を運転手なしで走る電動車両は、ヌサンタラが目指す都市像を先取りしているようにすら映った。
だが、その後の実証試験で問題が浮上する。

