「7日以内に家を取り壊せ」

洪水に加え、もう一つの公約違反が先住民の暮らしを脅かしている。

NPRによると、セパクラマ村で農地を耕すバリク族のシャムシアさん(51)と夫のパンディさん(53)は、当局からこう告げられた。いずれ、この土地を売ってもらう、と。

ヌサンタラの計画面積は約2,600平方キロメートル。これはニューヨーク市のおよそ3倍で、東京都をも上回る。開発が進むにつれ、周辺の村々は広大な市域に編入される見通しだ。

浄水施設の建設により、村の生活空間は一変した。バリク族が聖地とする「バトゥ・バドク」(セパク川に浮かぶサイの形をした岩)は施設の敷地内に囲い込まれ、住民はもう近づくことができない。洪水対策として川沿いに築かれたコンクリート壁も、かつて人々が水浴びや洗濯をしていた川辺への道を断っている。

同じセパク郡では、2024年3月にさらに大規模な取り壊し通告が出された。サウスチャイナ・モーニングポストによると、4村の数百世帯が当局から、「7日以内に家屋を取り壊せ」との文書を受け取った。建物が首都の空間計画に適合しないというのが理由だ。この指針が炎上したことを受け、当局は書簡を撤回し、取り壊しはいったん中止されている。

アムネスティ・インターナショナル・インドネシアのウスマン・ハミド事務局長は声明で、「立ち退きなしに新首都を建設するという政府の約束は、どこへ消えたのか」と問いかける。

「森の都」が森を削る矛盾

ジョコウィ氏は2023年12月の現地視察で、「ヌサンタラのコンセプトはフォレストシティだ。この地域はグリーンでなければならない」と語った。

ヌサンタラの計画予定地を訪問するジョコ・ウィドド大統領と東カリマンタン州知事
ヌサンタラの計画予定地を訪問するジョコ・ウィドド大統領と東カリマンタン州知事(写真=BPMI会長事務局/Muchlis Jr/PD Indonesian Government/Wikimedia Commons

島は1970年代までその4分の3が森に覆われていたが、以降の伐採ブームと度重なる火災によって、1973年からの40年余りで原生林の約34%が失われた。

英ネイチャーの姉妹誌サイエンティフィック・リポーツに掲載された2016年の論文によると、島のマレーシア側を除くインドネシア側から消えた面積だけでも、1440万ヘクタールに及ぶ。日本の国土の4割弱に相当する森が消失した。

新首都の建設が進む一帯も、こうして失われた元原生林のひとつだ。現在では木々が整然と並ぶ人工林を、生物多様性に富んだ熱帯林へと回帰させる。それがフォレストシティの構想だった。

だが、開発現場の実態は、この理想に明らかに反している。米環境保全ニュースサイトのモンガベイが2024年2月に報じたデータでは、政府の再植林目標8万2891ヘクタール(東京23区の約1.3倍の広さ)に対し、2022年末以降の実績は1441ヘクタールにとどまる。目標の2%にも満たない。

植栽の質の低下も深刻だ。現地調査にあたった専門家は、植えられたのは東カリマンタン原産でないユーカリなどが中心だったと指摘する。ボルネオオランウータンが生息地として依存するフタバガキ(ディプテロカープ)林の再生とはかけ離れた、在来種の多様性を欠く一律的な植栽である。

フタバガキ科の高木メランティを植えた区画では、苗木が1.5メートルまで育ったところで道路建設のために伐採される事態も起きた。

緑化の遅れに追い打ちをかけるのが、違法行為の横行である。サウスチャイナ・モーニングポストの報道によると、ヌサンタラ公安局のエドガー・ディポネゴロ局長は、新首都内で1万3000ヘクタール超の森林が「無責任な者たちの手」で損なわれたと発表した。このうち違法農地が8338ヘクタール、違法採掘が4236ヘクタールに上る。

同年9月には、バリクパパンへの幹線道路で違法採掘の石炭を積んだトラック7台が押収され、保護林内からは推定2000〜3000トンの石炭備蓄と白砂も発見されている。