7月24日に公開された『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』が好調だ。公開から3日で興行収入は22億4000万円、観客動員数は150万人を突破し、今年の夏映画の大本命となっている。神戸学院大学の鈴木洋仁准教授は「深いメッセージ性も、巧みな伏線回収もない。だからこそ大ヒットしているといえる」という――。
7月24日に公開された『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』
撮影=プレジデントオンライン編集部
7月24日に公開された『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』

「映画ちいかわ」が異例のヒット

「ちいかわ」とは何か。

2020年、イラストレーターのナガノ氏がX(旧ツイッター)に投稿し始めた作品である。正式には「ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ」であり、キャラクターとしては2017年に登場しているので、すでに10年近い歴史がある。2021年には単行本にまとめられ講談社から発売、その翌年からはフジテレビ系列「めざましテレビ」のコーナーとしてアニメ化された。

昨年7月には、東京・池袋に「ちいかわパーク」がオープンしており、すでに「国民的」と呼んでも異論がないほど有名な作品である。その映画化となれば、ヒットしないわけがない。

そう説明できるのなら、簡単だろう。

ただ、まずもって、この作品には、他には、あまり見られない特徴がある。それは、すでにネタバレして久しいという点である。映画の原作「セイレーン」編は、単行本8巻に収められているだけではない。いまもなおX上で無料で見られる。

もちろん、マンガにせよ小説にせよ、原作のある映画は、たくさんある。というよりも、オリジナル作品のほうが珍しいくらいだから、とりたてて「ちいかわ」が特別ではないだろう。

それでも、私を含めた多くの観客は、すでにストーリーを知った上で、劇場に足を運んでいるのではないか。

40歳以上の男性がこぞって驚くワケ

映画館に来た人たちにとっては、いまさら、「ホラー映画みたい」と怖がる必要はない。アニメライターの多根清史氏は、「ファミリー映画でありながら、お子様向けの手加減は一切ありません。それどころか、『怖さ』の演出にはさらに磨きがかかっています」と分析しており、まさに、この作品の特徴の一つなのだろう。

他方で、著名人たちからは驚きの声が聞こえる。たとえば、映画『カメラを止めるな!』の監督・上田慎一郎氏は、「こんな可愛い絵柄であんな話を見せられるなんて思わんやん」とXでポストしている。

この投稿を糸井重里氏が「この映画をきっかけになんかすごいことになりそう」とリポストしたり、元・放送作家の鈴木おさむ氏が「これまで、ちいかわ、まったく見てこなかったんですが、映画終わったあとの、大人のざわざわ いや、とんでもない映画 原作にあったはなしをなるべく再現してるのかな?」とインスタグラムで述べていたり、と、40歳以上の男性から、戸惑いのコメントが見られる。

46歳の私もまた、世代としては、彼らと同じ部類に入るものの、彼らが「驚いて」いる姿に「驚いた」のが正直なところである。もしかすると、彼らは、作品自体ではなく、自分たちの感覚が時代からズレている(かもしれない)点に「驚いて」いるのかもしれない。