日本人が世界で活躍するうえで大切なことは何か。アメリカを拠点にするエンジニアの井上恭輔さんは「日本のエンジニアはアメリカでは珍しい強みを持っている。私が高専などで学んだ『ものづくりの哲学』は、これからの時代にますます重要になる」という。ルポライターの伊田欣司さんが取材した――。(第2回/全2回)
井上恭輔さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
SANU執行役員CCXOの井上恭輔さん

過酷な現場こそ「エンジニアの戦場」

アメリカ・オレゴン州ポートランドの冬は、気温が氷点下の日も珍しくない。工具を持つ手はかじかみ、休憩時間の熱いコーヒーで全身が解凍されるようだ。

建設中のタワーマンションで、井上恭輔さんはスマートホームのデバイスをセットアップしていた。建築スタートアップのHOMMA(ホンマ)で自分が育てたプロダクトだ。作業着姿にヘルメットをかぶり、腰には工具を下げている。ITエンジニアであっても、オフィスでパソコンに向かうだけでは仕事にならない。チームで各地の現場を飛びまわり、システムの調査や設計、デバイスの設置や設定などを進めた。

ポートランドでは極寒の現場に私物のムービーカメラを持ち込み、プロダクトのデモ動画も撮影した。

「むちゃくちゃ寒くて、ザ・現場という感じでした」

自分が育てたプロダクトへの思い入れは強い。子どもの運動会を撮影する親の気分だった。

井上さんは自らを「フルスタックエンジニア(物理)」と呼ぶ。オフィスで設計図やソフトウェアのコードを書くだけでなく、建設現場に通ってデバイスの設置など実作業もこなす。全方位型エンジニアの看板に偽りはない。

オフィス仕事だけでは分からないこと

「建築のルールや習慣、いろんなことを学びました。関連事業者のおっちゃんと仲よくなったり、施工方法や技術を吸収したり、ITで効率化できるビジネスチャンスに気づいたり……有益な情報が現場にあふれていました。ただし、現場至上主義が強すぎると問題も起こる。例えば、社内でうまくコミュニケーションが取れなくなる。現場ではロジックで説明できないこと、想像を超えた理不尽なことが山ほど発生するから、現場を見ていない人には話が通じない。相手に理解してもらうことの難しさを痛感しました」

現場の感覚が身につくほど、他のITエンジニアと衝突したり孤立したりといった事態が起こる。フルスタックエンジニア(物理)ゆえの苦労だろう。

井上さんはとにかく現場仕事が好きだ。

一軒家のガレージをオフィスに改築したこともある。アプリ開発用プラットフォーム「DeployGate」を運営するデプロイゲートの米国オフィス。井上さんはミクシィ(現・MIXI)の社員だった2012年に「DeployGate」の創業に携わった。ミクシィ退職後の2016年に渡米すると、ミクシィから独立したデプロイゲートの米国法人を任された。