「1年分給料を払うから、好きなことをやってこい」

シリコンバレーで働いてみたいと伝えると、相談した副社長の答えは意外なものだった。

「おもしろすぎるから壊さなくていい(笑)。行ってこい」

笠原氏からも逆に思いがけない提案があった。

「1年分給料を払うから、好きなことをやっておいで。レポートもいらない。ただし1カ月でいいから帰ってくること。むこうで学んだスタートアップのエコシステムをミクシィに還元してほしい」

井上さんは2010年から1年間、FluxFlexという会社に出向する形で、シリコンバレーへ渡った。のちにメルペイのCTOを務め、現在はnewmoCTOの曾川景介氏を誘って、一緒に渡米した。

翌年、約束通りに帰国すると、シリコンバレーで学んだ開発者向けSaaSという新しい分野の知見を活かして新規事業を立ち上げた。「DeployGate」だ。同期入社の藤﨑友樹氏たちと日本のアプリ開発現場のデファクトスタンダードに育てた。

2014年、井上さんは結婚を機にミクシィを辞め、再びアメリカへ渡った。妻は未踏プロジェクトの後輩エンジニアで、ネット界隈では「@hatone」で知られる大島孝子さん。大島さんは結婚前に就労ビザを取得し、米国のサイバーエージェントに就職していた。

井上恭輔さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
井上さんがシリコンバレーにこだわってきたのは、日本人エンジニアは優秀だという確信を実証するためでもあった

やっぱり日本人エンジニアは優秀

「結婚が決まると、彼女が帰国するか、僕が渡米するかの二択になりました。当然、僕がミクシィを“寿退職”しました」

井上さんが活動の場としてアメリカ、なかでもシリコンバレーにこだわってきたのは、日本人エンジニアは優秀だという確信を実証するためでもあった。HOMMAではチーム拡大前の初期メンバーに日本のエンジニアを招いた。現在も若手エンジニアの渡米をサポートしている。

「インフラからアプリ開発まで幅広い領域を担当できるエンジニアは、分業と専門化が進んだアメリカでは採用するのが非常に困難です。何でもできるフルスタックなエンジニアは、ごく少数の本当に優秀な人たちだけ。アメリカの一般的なIT企業では、専門特化してない人材は給料が上がらないという構造上の理由です。

一方で、日本にはフルスタックに近い優秀なエンジニアがたくさんいます。何でも手広くできる貴重な存在。僕が日本の若手エンジニアたちを招き、ビザ取得を手助けできたのはよかったと思います。僕自身が渡米に苦労した分、日本からどんどん送り出したい。これからも海外を目指す日本のエンジニアは支援していくつもりです」

自ら日本人エンジニアの優秀さを証明した井上さんは、後輩たちにも可能な限りチャンスを与えたいのだという。