カリフォルニアで「足湯」に挑戦したワケ

井上さん夫婦は現在もカリフォルニアに住み、それぞれITエンジニアとして活躍しながらワインづくりに精を出す。ワイナリー「SUNSET CELLARS」はワイン好きが集まる場として賑わっているが、これまで順風満帆だったわけではない。

コロナ禍には休業命令を受けて経営危機に陥った。営業停止の期間中、井上さんは再開の日に備えてテイスティングルームをリノベーションし、施設内に足湯の施設をつくった。

日本の温泉文化を愛する井上さんは、DIYで温泉施設をつくるのが長年の夢。服を着たまま気軽に温泉を楽しめる足湯は、アメリカでもウケるのではないかと思いついた。

ただ、実際に計画を進めると大きなハードルがあった。カリフォルニア州では、商業施設に足湯を設置した前例はなく、関連する法律が見つからないのだ。地元の公衆衛生局に問い合わせると、法律では水深12インチ(約30センチ)以下はただの水たまりと見なすという回答だった。井上さんが設計した湯船は水深6インチ(約15センチ)だから「温かい水たまり」になる。局員も「とりあえず営業してみたら?」と許可を出してくれた。

DIYオフィスと同様、材料を買ってきて施工を進める。営業規制が解除され、日本式の本格足湯「Zen Zin Onsen」がオープンしたのは2021年5月。

足湯
写真提供=井上恭輔さん
「Zen Zin Onsen」では、足湯に浸かりながらワインを楽しむことができる

AI時代に求められる「ものづくり」の本質

「お湯は、地下から汲み上げたミネラル豊富な天然水です。木材の加工は得意分野でしたが、水漏れ対策には苦労して解決まで1週間かかりました。ITも駆使して、水位や温度を管理しています」

水位センサーや電磁バルブを用いて、専用のソフトウェア「Onsen OS」も開発した。趣味のDIYではなく、フルスタックエンジニア(物理)の実践という位置づけだ。

技術の抽象的なロジックを組み立てるだけでなく、物理的な現実世界で実装しきる。井上さんが「超低レイヤー」と呼ぶ領域を重視している点は注目していい。

「知識を蓄えたり、計画をまとめたりするなら、AIのほうが得意です。自分の手を動かし、現場で泥臭く課題を解決することこそがエンジニアリングの本質。僕が高専などで学んできたものづくり哲学は、これからの時代にますます求められると思います」

井上さんが目指す「フルスタックエンジニア(物理)」や「世界のあらゆるものを自分の手でつくれるようになる」は、日本のものづくり文化が根底にあることがわかる。

【関連記事】
【最初から読む】AIより人間の方がコスパがいい…年収3000万円の元米テック幹部が見抜いた日本で「技術革新」が起きない皮肉
「三菱商事"採用大学"ランキング」を見れば一目瞭然…学歴社会・日本で成功に必要な「出身大学の最低ライン」
仕事のデキない人ほどこの髪形をしている…相手から全く信頼されない「ビジネスで一発アウト」ヘアスタイル3選
ソニーでもトヨタでもない…テレビ・新聞が報じない「ものづくり大国・日本」復活の切り札となる「次の主役」
「本当のお金持ち」はポルシェやフェラーリには乗っていない…FPが実際に目にした「富裕層のクルマ」の真実