日本のものづくりを支える「高専」とは
高校受験が近づくと、井上さんは「コンピュータだけやっていける道はないか」と考えて、高等専門学校(高専)への進学を決めた。調べてみると、全国の高専でサーバーのスペックが最も詳しく紹介されていたのが岡山県の津山高専。当時では 珍しい純粋な情報工学科があった。
中学の担任の先生に「高専にいきたい」と話すと、「井上くんが高専?」と鼻で笑われた。偏差値はまるで足りない。
「悔しくて猛烈に勉強しました。人生で一番、勉強したかも」
高専は理工系に特化した5年制の教育機関で、高校教育の必須科目に縛られず、1年から専門科目を集中的に学べる。教員は博士号をもつ教授や准教授、教わる側が「生徒」ではなく「学生」と呼ばれるのも大学に近い。
15歳から理工系の専門教育に専念できるから“ゴールデンエイジ”のメリットが最大限に活かされる。高専の教育システムは海外でも高く評価されている。
井上さんは2001年に津山高専の情報工学科に入学し、朝から晩までコンピュータに専念する。
「才能のある変なやつだらけで最高の環境でした」
いまだに破られていない「ヤバい記録」
2年生になった2003年、井上さんは全国高専プログラミングコンテスト(プロコン)に初出場した。津山高専は初めて予選を通過し、鳥取県松江市で開催された全国大会に進んだ。
当時は、予算が豊富な学校のチームがアーケードゲームのようなハードウェアにも凝った作品で優勝することが主流だった。しかし井上さんたちは、純粋なソフトウェアのみで勝負した。
津山高専の作品は、ネットワーク対応型のタイピング練習システム。教授がフロッピーディスクで管理していた練習成果や問題配信をすべてネットワーク上で集中管理し、対戦や集計ができる。ネットワークを通して複数人で使える教育システムだった。
結果は、全国優勝。文部科学大臣賞を受賞した。
「ピュアなソフトウェアで全国優勝は過去にないことでした。低予算でもあり、エポックメイキングな出来事でした」
井上さんは本科の5年間でプロコンに4回出場し、3回の全国優勝を果たしている。高専全体でもいまだに破られていないレコードだという。
ソフトウェアだけで優勝を重ねた経験は、見た目の派手さではなく、本質的な課題解決に集中する技術者マインドを培った。

