予算がなければ、自分で作ればいい

スタート時はリモートワーク主体でオフィスは必要なかった。しかし事業が拡大するにつれ、スタッフが集まる拠点がほしくなる。ただし、予算はない。

井上さんはシリコンバレー近郊にある知人宅のガレージを借り受け、約2カ月かけてオフィスを施工。朝、夜、休日と業務外の時間にほぼ自分ひとりで作業を進めた。

「プログラミングができる自分は、ネットで調べればオフィスもつくれると思ったんです。無料の3D-CADサービスで設計図を作成し、壁の防音断熱材にもこだわりました。電気工事も自分でやったから何度も感電して。120ボルトはさすがにパンチが効いていて強烈でした(笑)」

ガレージ内の壁や床は、約2インチ×4インチの規格材を使うツーバイフォー工法を採用。木材だけで総重量500キロ以上。アメリカはDIYが盛んだから、近所のホームセンターで建築業者と同じ建材や工具を買うことができた。2カ月後に完成した「DeployGate 米国オフィス Version 1.0」と社内ミニバー「THE GATE」は、久しぶりに体験した“純粋なものづくり”の成果だった。

DeployGate 米国オフィス
写真提供=井上恭輔さん
完成した「DeployGate 米国オフィス Version 1.0」

DIYオフィスの経験が「キャリアの転機」に

「正直いってめちゃくちゃ大変でした。物理的なものづくりは、スキルに加えて筋力も要求される。完成した頃にはムキムキになっていました。なによりおもしろかったのは、興味本位の純粋なものづくりが32歳にして改めて体験できたこと。大工仕事の技術の一つひとつが新鮮で、プログラミングを勉強しはじめた中学時代を思い出しました」

DIYオフィスの経験は、キャリアの転機になるほど大きかった。ソフトウェアだけでなく、現場レベルの「物理」も手がける「フルスタックエンジニア(物理)」という独自のアイデンティティが確立したからだ。「地球上のありとあらゆるものを自分でつくれるようになる」という夢を描き、「超低レイヤー実装技術」へと活動領域が広がるきっかけとなった。

ガレージ内にオフィスができていく模様を紹介したブログは話題となった。ブログを読んだひとりにHOMMAの本間毅社長もいた。自分で資材を運び、工具を握るITエンジニアは、IoTハウスの事業にうってつけだと声をかけてくれた。井上さんが実際の事業で建築とテクノロジーの融合に取り組むきっかけはDIYオフィスだった。