イーロン・マスク氏による買収当時、ツイッター社内では何が起きていたか。『ルポ シリコンバレー AIブームと米国社会の断層を歩く』(朝日新書)を出した朝日新聞記者の五十嵐大介さんは「ツイッター買収直後、マスク氏は従業員の約半分にあたる約3700人の人員を削減。その後も従業員数を3分の1ほどまで減らした」という――。

マスク氏による買収完了前日のダジャレ投稿

「何をしている」

2022年10月26日夕方、サンフランシスコ市庁舎からほど近いツイッター(現X)本社。閑散としたビルの受付に近づくと、屈強なガードマンにそう制止された。

この日、世界一の富豪イーロン・マスク氏はこのビルの中にいたようだった。

ツイッターの本社(当時)
イーロン・マスク氏が買収したツイッターの本社(当時)。この日、マスク氏はこの建物にいたとみられる=2022年10月26日/出典=『ルポ シリコンバレー』(朝日新書)

私がビルに着く数時間前、マスク氏はツイッターにこう投稿していた。

「Entering Twitter HQ(ツイッター本社に入るところ)」

投稿には、マスク氏が洗面台のシンク(流し台)を抱え、笑顔で本社ビルに入る動画もつけられていた。「しっかり受け止めて(let that sink in)」というニュアンスの慣用句と、シンク(sink)をかけたダジャレだった。

マスク氏が投稿した動画
マスク氏が投稿した動画。シンク(流し台)を持って本社に入る様子が映されていた/出典=イーロン・マスク氏のXへの投稿より

翌日、マスク氏は総額440億ドル(約6兆8000億円)でのツイッターの買収を完了した。日本でも利用者が多いSNSは、買収を契機に名実ともに姿を変えた。

スマホに届いた衝撃的な解雇通知

それから約1カ月後、サンフランシスコの高台にある住宅地。坂道を上ったところに、ツイッターの元契約社員メリッサ・イングルさん(48歳)の自宅があった。

「衝撃的だった」

イングルさんは22年11月、11歳の娘らとショッピングセンターにいたとき、スマホの通知に気がついた。会社のシステムにアクセスする権限が削除されたとの通知だった。社内のメールにアクセスできず、解雇されたことを知った。

「サンフランシスコは世界で最も物価が高い都市の一つ。仕事を探しながら、2人の子どもを抱えてクリスマスを迎える。どうやって暮らしていけばいいのか」

契約社員だったイングルさんは、月収は約1万4000ドル(約220万円)あった。それでも、退職金はもらえず、家賃や保険料など約1万ドルの出費がのしかかった。テック業界では何度も解雇を経験したが、「他社では最後は対面で話をするなど、もっと尊厳を持って接してくれた」という。