従業員が3分の1になった買収劇

イングルさんは21年9月にツイッターに入社した。投稿の安全対策を担う部署で、シニアデータサイエンティストとして働いていた。

マスク氏はツイッター買収直後、従業員の約半分にあたる約3700人の人員を削減。その後も追加の人員削減に踏み切った。当時の米報道によると、従業員数は当初の3分の1ほどの2000人台に減った。

イングルさんによると、4000人以上いた投稿チェックの契約社員はほぼ大半が解雇され、30人いたイングルさんのチームは8人に減った。当時は、ブラジル大統領選と米国の中間選挙が重なる時期だった。

ツイッターは当時、世界で1時間に4000万件近いツイートの投稿があるとされた。

イングルさんによると、政治的な偽情報を見つけるのは「大量のわらの中から針を探すようなもの」という。イングルさんは、そうした投稿をふるいにかけるための人工知能(AI)のアルゴリズム(計算手順)を書いていた。

元ツイッター契約社員のメリッサ・イングルさん
元ツイッター契約社員のメリッサ・イングルさん/出典=『ルポ シリコンバレー』(朝日新書)

人員削減で増える「有害投稿」の懸念

偽情報を見つけるしくみはどうなっていたのか。

「たとえば、陰謀論的なドキュメンタリーの名前が含まれる投稿には、一定の割合で偽情報が含まれている可能性がある」

そうした偽情報と関連づけられそうなキーワードを探しだし、検索をかける。ヒットした投稿に「スコアづけ」をし、一定以上のスコアの投稿は削除の対象となる。これを補う形で、人間の目でもチェックする。

イングルさんによると、検索するキーワードは、それぞれの国や法律、そのときのトレンドなどにあわせて調整し、アルゴリズムを常に改善していく。

「アルゴリズムを改善できなければ、偽情報を探す能力は下がり、穴があくようになる。ある言葉がなにを意味するかを判断するのは、人間には比較的簡単だが、コンピューターにとっては極めて難しい。完全なものとはほど遠い」

イングルさんは、ツイッターを大きなビルにたとえた。ビルの新しいオーナーが、警備員や維持管理者の多くをクビにしたらどうなるか。ビルはすぐにはなくならないが、やがてゴミがたまり、トイレが詰まり、電球が切れる。やがてビルから人が減っていく。

「有害投稿が増えることを懸念している。マスク氏はすべてを自動化したいと考えているが、到底そのレベルに達していない。投稿管理にかかわった立場からみると、マスク氏が望んでいることは極めてナイーブだ」