「AIによる人員削減」の背景事情
シリコンバレーから離れたオレゴン州ポートランドあたりは物価や賃金が安く、駆け出しのエンジニアが年収1500万円ほど。シリコンバレーを含むサンフランシスコ湾周辺では、年収1800万円であってもまともな人材は採用できないという。スタートアップなら、毎月の給料とは別にストックオプションがつかないと優秀なエンジニアは集まらない。
「ただしレイオフされると、ストックオプションは一定の価格で買い取るか、放棄するかを迫られるんです。僕は意地ですべて買い取った。おかげで貯金は底をつきそうになりました」
日本の給与水準では、羨ましいほどの高給。しかし井上さんによると、シリコンバレーでは「生活実感として1ドルが100円ぐらい」なので、年収1800万円でも生活に余裕はない。なにしろ地域全体で給与も物価も高い。マクドナルドの最低時給は20ドルだから、日本の2倍以上だ。
「シリコンバレーの給与体系は異常です。人件費が高すぎるから、企業はAI、自動化などの技術革新を加速させる。AI導入によるレイオフも日常茶飯事。プログラミングができれば誰でも稼げるといわれたシリコンバレーの給与体系は、もう完全に崩壊したように見えます」
日本人は優秀なのに給料が安すぎる
ITで世界の最先端を走ってきたシリコンバレーで“AIレイオフ”の嵐が吹き荒れている。AI導入によって「ITエンジニアの生産性は8倍以上になる」と井上氏は語る。1人で8人分の仕事ができれば、7人が不要になる。大規模なレイオフが起きても不思議はない。
「僕自身、AIを使うと1日に出力できるプログラムの量は8倍になった。24時間働くジュニア・エンジニアを8人、10人と雇っている感覚です。ただし、僕たちの仕事でAIをフル活用するには、頭の中で瞬時に指示を設計できる能力が必要。いくらAIを導入しても、使う人間がポンコツでは生産性は上がらない。中途半端なエンジニアは大量にレイオフされる。広くて深い知識をもつ人間とAIがビジネスを支配する時代に入っています」
最先端のシリコンバレーだからこそ、AI時代に起こる「人間の働き方問題」がいち早く顕在化していることがわかる。日本でも将来起こり得る動きと考えたほうがいいのだろうか。
この点について井上さんは、「日本は逆に働く人が優秀なのに給料が安すぎるから、急いでAIなどに置き換えるメリットがない。技術革新が進まない理由です」と語る。

