脳寿命を左右するのは口腔内の健康管理である
認知症専門医として29年にわたり、延べ20万人以上の患者さんを診察してきた経験から、ある一つの可能性が見えてきました。それは、「ボケない脳」をつくる鍵が「歯」にあるという事実です。
医療法人ブレイングループ理事長。認知症専門医。医学博士。祖父が認知症であった経験から医師の道を志す。病気だけでなく生活、家族も診るライフドクターとして活動し、在宅医療では7万件以上の訪問診療、1000人以上の看とりを実践している。著書に、『ボケ日和』『脳の老化を止めたければ歯を守りなさい』(ともに、かんき出版)などがある。YouTubeチャンネル『長谷川嘉哉「ボケ日和 転ばぬ先の知恵」』は、登録者数16万人超。
私たちの命は「口」から栄養を摂取することに始まり、「歯」を失い食べられなくなることで終わりへと向かっていきます。極端なことを言えば、手足がなくても生きていくことは可能ですが、歯を失い口が使えなくなれば、栄養摂取ができず死んでしまいます。
また、歯で噛むという行為は、脳へ血液を送り込む強力なポンプの役割を果たしています。ひと噛みごとに約3.5ミリリットルの血液が脳へと送り込まれます。これは市販のお弁当についている魚の形の醤油入れ1個分に相当する量です。つまり、噛めば噛むほど脳にはひっきりなしに血液が送り込まれ、常に刺激を受け続けて活性化しているのです。
日本は世界でも有数の長寿国ですが、歯の健康状態に関しては大きな課題を抱えています。2012年の厚生労働省の統計によると、80歳以上で残っている歯の本数の平均は以下の通りです。
・アメリカ13本
・日本9.8本
予防歯科が進んでいるスウェーデンと比べ、日本は半分以下の本数しか歯が残っていません。日本では「年をとれば歯が抜けるのは当たり前」と考えられがちですが、実際には予防さえしっかりしていれば、多くの歯を残すことは可能なのです。
歯の不具合を放置することは、直接的な死亡リスクの上昇にもつながります。大阪公立大学と大阪大学のチームが、75歳以上の大阪府民約19万人を対象に行った調査結果がそれを物語っています。
2年間以上の追跡調査において、健康な歯と治療した歯の合計本数が0本のグループは、21本以上のグループに比べて、死亡リスクが男性で1.74倍、女性で1.69倍も高くなることが判明しました。未治療の歯の本数が多いほど死亡リスクが高まる傾向にあり、歯の健康維持が生命維持に直結していることが示されています。
そして、日本人の成人の多くが患っているのが歯周病です。その発症率は35歳前後から上がり始め、40代になるころには、なんと約8割もの人が何らかの形で歯周病を発症しています。若いうちは免疫力が高いため、軽い炎症が起きても自然に治ることがありますが、35歳を過ぎて免疫力が低下し始めると、修復スピードが追いつかずに歯周病が進行しやすくなります。
歯周病は自然には治りません。この30代半ばという年代こそが、これまでの歯のケアを見直すべき重要なターニングポイントなのです。
万病のもとは口内にあり 口腔内細菌の恐ろしさ
口腔内の状態悪化は、単に歯を失うだけでなく、全身に深刻な病気をまき散らす原因にもなります。
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