感染状況が落ち着きをみせ、出社を増やす会社が増えているが、引き続きテレワークを希望する人も多い。神戸大学の大内伸哉教授は「テレワークは労働法が想定していない働き方。労働時間を把握しづらいため、適正な残業代が支払われない恐れもある。テレワークを成功させるためには、業務を明確にし、成果で管理する働き方への転換が必要だ」という――。
子どもと一緒に自宅で働く父親
写真=iStock.com/kohei_hara
※写真はイメージです

フルリモートワークによって生じるさまざまな軋轢

新型コロナ感染症(COVID-19)後に急速に広がりをみせたテレワーク。これをきっかけに初めてテレワークを導入した会社もあるだろう。社員にとって気になるのは、こうしたテレワークブームが、アフターコロナにどうなるかだ。

テレワークは、コロナ禍の緊急避難的なものなので、アフターコロナでは、元の働き方に戻そうと考えている会社も少なくない。その一方で、テレワークを導入してみて、意外にうまくやれると感じている会社もあるようだ。

テレワークは、最初は社員も経営陣もぎごちなさがあったが、慣れてくるとメリットをいろいろ実感できるからだろう。とりわけ社員にとっては、通勤がなくなることは有り難い。時間もエネルギーも節約できるので、家庭がある人は家族サービスの時間が増える。余った時間を趣味や自己研鑽に充てることもできる。

会社のほうも、社員に余裕がうまれれば、生産性の向上を期待できる。もちろん、リモート環境ではコミュニケーションがとりにくいといった仕事のやりにくさはある。ただそれも、性能の向上したビデオ会議ツールの普及などで、解消されつつある。社員も上司もこうした働き方に徐々に慣れてきている。

とりわけICT(情報通信技術)やデジタル技術を活用する会社では、すでにそうした新技術に慣れ親しんでいるので、テレワークを全面的に導入することに抵抗が少ないはずだ。大手フリマサイトを運営するメルカリの発表した「メルカリ・ニューノーマル・ワークスタイル」が、まさにそのような例だ。メルカリのHPをみると、その内容は次のように紹介されている。

オフィス出社も、出社を前提としないフルリモートワーク勤務も社員それぞれが選択することができます。

日本国内であれば住む場所や働く場所についても社員が各々、選択することができます。

マネージャーはオフィス出社/リモートワークなどワークスタイルを推奨をすることが可能ですが、最終的には各個人が自らだけでなくチームのパフォーマンスやバリューが最大限に発揮できるワークスタイルを考えて、決めることができます。

なお、出社の有無によって社員が不公平な扱いを受けることはありません。

メルカリの新しい働き方そのものへの評価は、今後の運用次第だが、少なくとも社員の選択によるフルリモートワーク(完全テレワーク)が、これからのデジタルトランスフォーメーション(DX)の時代の働き方のモデルとなることは、間違いない。

ただ、フルリモートワークは、大多数の会社で長年行われてきた働き方とはまったく異なる。今後、この働き方が他の会社にも広がっていくと、さまざまな軋轢が生じるおそれがある。なかでも懸念材料は労働法との関係だ。

労働法が新しい働き方に対してうまく機能しなければ、社員にとっては、一見良さそうなこの働き方が、思わぬ「落とし穴」となりかねない。そうならないようにするためには、まずは労働法のことを知っておく必要があろう。