労働時間管理とプライバシーのバランス
もっとも、社員のほうから、労働時間をきちんと測定してほしいと会社に求めるのは、やぶ蛇になるおそれがある。
そもそも、会社の本音としては、リモートで働く社員には、サボる危険があるので、働きぶりをきちんと監督したい。だから、社員のほうから、例えば労働時間を正確に把握するために、パソコンに設置したカメラを常時オンにして仕事ぶりをチェックしてほしいと申し出たりすると、会社はコストの問題さえなければ喜んでこれに応じるだろう。
こうなれば労働時間の把握はできるが、会社からずっと監視されることにもなる。これは社員にとって窮屈なことだろう。
対面型の働き方のときでも上司は監視しているので、それと同じことだと言えなくもないが、デジタル技術を使うと、会社は社員がサボっているかどうかを常時監視することが可能だ。人間の目による監視のときにあるような「隙」がなく、AI(人工知能)が常時チェックしているのだ。これは、社員には大きなストレスとなり、新たな労災(精神疾患)を生み出すことになりかねない。加えて、収集されたデータ(個人情報)がどのように利用されるかも心配だ。
それにテレワーク(在宅勤務型の場合)の職住一体という特徴は、仕事の領域と私生活の領域とが物理的に区別されないため、プライバシーが侵害される危険が高まる。ライフのなかにワークが浸食してくることになり、ワーク・ライフ・バランスからほど遠いものにもなる。
テレワークでは成果評価が適当
社員にとっては、こうした監視方法をとる会社は、たとえ労働時間をきちんと管理してくれて、それが割増賃金の正確な支払やしっかりした健康管理につながるとしても、あまり有り難くないかもしれない。
では、テレワークは、以上のような問題をどうしても避けられないのだろうか。一つの解決策は、会社が社員管理の方法を根本から見直すことだ。
テレワークする社員の仕事ぶりを現認して評価するとなると、どうしても上記のようなリモートでの監視を強化せざるを得なくなるが、社員のやるべき業務を明確にし、成果型報酬に切り替えて、仕事ぶりを成果で管理することができれば、こうした監視の必要性は大幅に低減する。サボると成果が出ないので、社員には真面目に働くインセンティブがあるからだ。これにより、プライバシーを侵害するような社員管理も不要となる。
このように社員管理が、プロセスではなく、成果でみるということになれば、社員にとって重要なのは、労働時間がどうかではなく、どのような業務に従事し、その成果をどのように会社が公正に評価して報いてくれるかになる。
社員が働き過ぎないための規制も必要
ただ、会社が社員管理をどのようにしようとも、労働時間の把握は法律上の義務だ。監視しないことの弊害は、勤勉な日本人の場合は、社員がサボるのとは真逆の働き過ぎのほうにある。上司が制止しなければ、仕事に熱心に取り組むあまりついつい働き過ぎてしまうという懸念だ。とりわけ成果型報酬になると、成果を求めて過労となりがちだ。
実は、会社には、社員の過労防止のために、監視の強化という以外にもやれることがある。それは「つながらない権利」を認めることだ。
夜中や休日などの業務メールが、社員の自由時間を奪っていく。メールをみなくてもよい時間帯を設定することが大切なのだ。また、会社のシステムにアクセスできない時間帯をつくることも考えられよう。これにより社員を強制的に仕事から隔離することができる。もちろん、これをうまく機能させるためには、社員にも自覚が必要で、会社が進んで社員に健康管理意識を高めるよう啓発することも必要だろう。