みなし労働制の導入には要件がある
このほか、外回りの営業職のように事業場の外で働いて、労働時間の算定が困難な社員の労働時間は、その会社の就業規則の定める労働時間(所定労働時間)とみなすという仕組みもある。これを「事業場外みなし労働時間制」という。
これだと時間外労働は始めから発生しない(その業務を遂行すると、通常、所定労働時間を超えてしまう場合には、過半数代表との協定でより長い労働時間を決めることもできる)。テレワークの場合には、事業場の外で働いているので、この仕組みを導入することも考えられる。
ただその際に問題となるのは、「労働時間の算定が困難」という要件だ。
厚生労働省のガイドライン「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」によると、①情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと、かつ②随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと、という要件を充足していなければならない。
しかし、多くの会社では、この2要件に合致するような形ではテレワークを導入しないだろう。社員に常時通信可能な状態であるよう指示したり、具体的な指示を随時行ったりするだろう。そうなると「事業場外みなし労働時間制」は導入できないことになる。
テレワークで労働時間規制が形骸化するおそれ
事業場外労働のみなし労働時間制や裁量労働制が導入されていない一般の社員の場合、労働時間の管理はどのようになされるのだろうか。
会社は、社員の労働時間の適正な把握のために、始業・終業時刻を確認して記録しなければならない。その方法として、厚生労働省が会社に求めているのは「自ら現認する」ことと「客観的な記録」だ。
テレワークの場合、「自ら現認する」のは難しいので、「客観的な記録」という方法がとられる。具体的には、労働者がテレワークに使用するパソコンの使用時間の記録を利用することになろう。また「客観的な記録」では十分に労働時間の把握ができないことに備えて、自己申告も可能とされている。
しかし、自己申告で正確な労働時間が把握できるだろうか。自己申告においては、労働者が実際に働いた時間より長い時間を申告して不当に割増賃金を請求するという懸念もあるが、その逆の過少申告の懸念もある。会社から申告時間の上限を設定されるケースもある(これは違法だ!)が、労働時間が長くなったのは、自分の能力不足だからと考えた真面目な社員が、自発的に実際の労働時間を申告しないこともある。
以上のような労働時間管理に関する問題は、普通の勤務においても起こることだが、テレワークとなると、そのおそれがいっそう高まる。つまりテレワークで労働時間を自己申告とすると、労働時間規制は形骸化する危険があるのだ。