日本の男子小学生は「トイレでの大便」をバカにして、はやし立てることがある。ライター・編集者の中川淳一郎さんは「これは排泄行為を恥や穢れのように扱い、忌み嫌っているからだろう。日本人は、清潔であること、無菌であることにとらわれ、いまや『潔癖モンスター』となっている。これは日本人の幸せを損ねているのではないか」という──。
小学校のトイレ
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排泄を徹底的にタブー視する日本人

人生とは、排泄である。

食事は一般的に1日2回~4回程度だが、排泄は大便と小便を合わせれば7回ほどはするだろうか。頻度としては食事よりも高いわけで、非常に重要度が高い日常的行為といえる。

先日、私の現在の拠点である佐賀県唐津市から福岡空港まで高速バスで向かう知人・A氏から悲痛なメッセージが届いた。そのやり取りから、改めて「排泄」という行為が人間にとってどれほど重要かを思い知らされた。さらに、場合によっては汚点や心的外傷すら残す可能性があることも再確認したのだ。

食べ物については、テレビや雑誌をはじめとしたさまざまなメディアでおいしい店の案内とかレシピの紹介などが数多く登場する。また、食関連情報をまとめたウェブサイト、SNSを見れば、ユーザーたちがああだこうだと書き込んだ感想であったり、ウンチクやTIPSであったりに触れることも容易だ。

しかし、どんなにウマいものを食べようが、その先に待っているのが気持ちよく排泄できないような苦しい状態だとしたら、そちらのほうが圧倒的に人生において大きな影響を与える。ミシュラン3つ星の絶品寿司を食べた帰り道、猛烈な便意を催し、我慢しきれなくなって公共の場でもらしてしまったらどうなるか……。考えるだけで恐ろしい。

なぜ「体内に入れる」ことについてはここまで情報が氾濫しているのに、「体内から出す」ことについては徹底的にタブー視され、この上ない恥のように忌避されてしまうのだろう。どうして日本人は「排泄」について表立って話題にすることを避けたがるのか。

高速バスのなかで大便をしたくなったら

先述したA氏は、約1時間40分を要する唐津→福岡空港のバスに乗った後、30分ほど経ったとこで急に便意を催したという。唐津各所にあるバス停を経由し、高速道路に乗った後のことだ。次のバス停「天神日銀前」までは約40分。仮に10分ほど前に便意を催していれば、運転手に頼み、途中のコンビニに寄ってもらって排泄をすることが可能だった。だが、残念ながら高速道路に入ってしまった後だから、停まることはできない。切迫した状況下で、次のようなやり取りになった。A氏は気を紛らわすため、とにかく私にメッセージを書き続けたのである。

【A】トイレ、行きたくなってしまいました……

【私】えっ、どっちですか?

【A】

【私】我慢できますか?

【A】うぅ……頑張ります

【私】福岡空港まで行くのは諦めて、天神日銀前で降りて近くのコンビニに入りましょう

【A】それでは飛行機に間に合わないから我慢します

こういったやり取りがあった後、恐らく福岡空港の便所個室で用を足しながら書いたと思われるメッセージが届いた。「なんとか我慢できました。本当にホッとした」との文面を見て、私も心から安堵した。A氏は苦悶の1時間10分を過ごしたに違いない。万が一漏らしていたら、飛行機に乗るどころではなかっただろう。