宇都宮浄人(うつのみや・きよひと)
関西大学経済学部教授。1960年、兵庫県生まれ。茨城県立水戸第一高校、京都大学経済学部卒。84年、日本銀行に入行。英マンチェスター大学大学院留学、一橋大学経済研究所専任講師、日銀調査統計局物価統計課長などを経て2011年から現職。著書に『路面電車ルネッサンス』(第29回交通図書賞)など。

鉄道ファンに限らず広く一般に呼びかける憂国の書。2000年に鉄道事業法が改正され、鉄道を容易に廃止できるようになったことから、とりわけ地方都市で有無をいわせぬ不採算路線の「切り捨て」が続いている。それでいいのか? 宇都宮浄人氏は、立ち止まって冷静に考えてみようと訴える。

「モータリゼーションの進展以来、世界的に鉄道は斜陽産業とされてきました。しかし、環境意識の高まりと中心市街地衰退の危機意識を背景に、いまでは欧州ばかりかアメリカでさえも路線新設が相次いでいます。欧州では国境を越えた高速鉄道網の整備が進んでいますし、ドイツのフライブルクやスイスのチューリッヒ、フランスのミュールーズなどLRT(次世代型路面電車)の導入が街の活性化をもたらした例も知られるようになりました。ところが同様の問題を抱えているにもかかわらず、日本だけは既存の線路を『剥がす』という、正反対の路線を進んでいます」

とりわけ問題視するのは、地方都市における鉄道廃止の動きである。廃止を後押しするのはおおむね「不採算」と「市民生活の自動車シフト」。だが、宇都宮氏によれば「初期投資の負担が大きく公共サービスの側面もある鉄道は採算を取りにくい。その代わり、人が集い、街が賑わうという便益をもたらすので、相応の公的支援はやむをえないというのが世界的な常識です」。

なぜそれが日本には浸透しないのか。

「20世紀に日本の鉄道事業が例外的な大成功を収めたからです。それで『鉄道は純然たる民間事業であることが望ましく、黒字経営があたりまえ』という認識が広まったのです」

考えてみれば、道路や公営駐車場の建設・維持には巨額の公費があてられる一方、鉄道は黒字経営が当然視され、年間数千万円の補助でも「無駄ではないか」と批判される。実際にはどちらも公的インフラであり、とりわけ鉄道は子どもや高齢者といった交通弱者の足として決定的に重要だ。であれば、社会的便益をどれほどもたらすかを基準に、両者の比較をするといった態度が必要だろう。

現に富山市では、LRTの整備・延伸や中心市街地への移住促進によって街のにぎわいが戻ったばかりか、市税の半分近くを占める固定資産税の増収効果もあがっている。

「鉄道、とくに建設コストの小さいLRTは投資に見合う効果が出るのです。効率的な投資により、街の賑わいを取り戻すことが大切です。まだ手遅れではないと思いますよ」

(浮田輝雄=撮影)
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