「昨日、ちょっと遅くまで飲んでまして」。少しだけ赤い顔をして、大竹さんは待ち合わせ場所の新宿思い出横丁に現れた。でもよく聞くと、今朝6時まで飲んでいたという。昨夜の話じゃなくて午前様だ。「朝8時に家に帰りついて少しだけ寝て、どうにか出てきました」。
さすがは、酒飲み人生謳歌マガジン「酒とつまみ」の前編集長。そして、東京駅から高尾までの全駅で、ただひたすらホッピーを飲みまくる「中央線で行く東京横断ホッピーマラソン」などなど、数々の赤提灯ルポで知られる酒飲みライターだ。
そんな大竹さんが、初めての小説を書いた。ジローという名の中年男性が主人公の物語だが、次男坊である大竹さんの半生をほぼそのまま小説にした。大竹さんの今は亡き父親、そしてその父親に振り回される家族の姿が描かれている。
三鷹の公団住宅に、ばあちゃんを含めた一家5人で住み、自慢の父親が率いる野球チームで、関東大会出場を目指して頑張っていたジロー少年。だが、そんな幸せな日々は、12歳のときに突然終わりを告げる。父親が経営していた会社が破綻。母子を残して父親は失踪し、翌年、父と母は離婚した。
その後も父親は詐欺の疑いで警察に追われ、中学3年のときには、刑事が自宅にやってくる事態に。
その父親は、12年前に67歳でこの世を去った。最後の6年間は認知症を患って、精神科病院暮らしとなった。
誰よりも怖く、そして憎かった父親。だけど誰よりも愛していた。でも、最後までうまく折り合うことができなかった。
亡き父親への追想が、ほろ苦さの残る昭和の風景の中で綴られる。いわば、よりビターでよりリアルな「三丁目の夕日」の世界。亡き父に捧げたオマージュ小説だ。
「一度、父親のことを整理しておかないと、先に進めないと思って。初めての小説は父親のことを書こうと心に決めていた」
愛していても憎んでいても、いつかは超えねばならない父親の背中。あらゆる父と息子の間に渦巻く普遍の物語だ。
「すり抜けていく父親を追いかけ、でもまだ追いつけない。オヤジが昭和にやろうとしていたことを、今度は自分が平成でやろうとしているだけではないのか、なんて思ったりして」。自らも中年へとさしかかり、鬱々としながら、酒を飲んでは父親を思い出す。
ひと通り話が終わると大竹さんは次の店を求め、新宿アルタ前へと抜ける地下通路の中へと、少しだけ千鳥足で手を振りながら消えていった。