『なぜマッキンゼーの人は年俸1億円でも辞めるのか?』という書名が一部で反感を買い、ネットの“炎上”騒ぎが起きた。
一橋大学を卒業後、マッキンゼーに入社。26歳で同社史上最年少のマネージャーに昇格。そして退社後、靴の通販サイト「ロコンド」の経営に参画し、1年間で22億円もの資本を集め、2011年9月には訪問者数日本第3位の通販サイトに成長させた。著者の田中裕輔さんの経歴を見ると、華やかすぎて眩しいくらいだ。しかし、その書名や経歴とは対照的に、この本には「社会にインパクト(変革)を与える」ことを常に意識し、失敗を繰り返しては悩み、なんとか前進しようとする“青臭さ”に満ちている。
「マッキンゼーではクライアントの会社、ひいては日本や社会にインパクトを与えることが重要だと言われ続けてきました。それが当たり前だと思っていたのですが、退社後、同世代の日本の20~30代がおとなしすぎるように感じ始めました」
そつなく仕事をこなすがリスクを取らず、手堅い人生を望む人が多いように思えたのだ。
「だからこそ、この“インパクト志向”を一人でも多くの同世代の人たちと共有し、みんなで変えていこうというムーブメントを起こしたかったのです」
田中さん自身、大学時代は無気力な“ダメ大学生”だったという。それをたたき直してくれたのはマッキンゼーだった。本書でも、あえて自らの失敗談に多くのページを割いた。
「海には魔物がいると思っていても、実際に航海したらいなかったことは結構あります。まず一歩出ることが重要。僕の10年間の財産は“失敗”でした。失敗とちゃんと向き合わないと絶対に成長しません。むしろ失敗しないのはもったいない」
そのように語る田中さんは、仮に年俸1億円だったとしても、失敗を恐れずに世の中にインパクトを与えることを選んだはずだ。愚直なことにこそ、輝きが宿ることを教えてくれる1冊である。