中島 恵(なかじま・けい)
1967年、山梨県生まれ。90年、拓殖大学外国語学部中国語学科卒業後、日刊工業新聞社入社、国際部、流通サービス部などで記者として活躍する。94年に同社退社、香港中文大学に留学、北京語と広東語を学ぶ。96年に帰国後、フリージャーナリストに。著書に『職は中国にあり』『ポジャギ』など。

在日の中国人エリート約100人へのインタビューを基に書かれたという。ここでいう「エリート」というのはどのくらいの年収、職業、学歴の人々を指すのか?

「厳密なわけ方はしていません。中国はあまりに広く、何かの『平均値』で語ることは意味をなさない。日本の一流大学を出て米国でMBAを取ったような人もいますが、超高学歴の人だけが国を動かしているわけではないので、『一般の教養ある人』というところに着目しました」

中島さんは大学で中国語を学び、香港に留学経験を持つ。雑誌連載がきっかけで、在日中国人へのインタビューが始まったが、取材したのは主に80后(バーリンホウ)、90后(ジュウリンホウ)と呼ばれる1980年代、90年代に生まれた若い世代だ。反日傾向が強いといわれる世代だが、ステレオタイプのイメージは次々と覆される。意外に人気の小泉純一郎元首相、日本文化や企業への高い評価――。これまで数え切れないほど中国に足を運んで取材を重ねた著者ですら驚きを感じたという。

普通の報道ではなかなか聞けない中国人たちの本音が丁寧に掬い取られているが、ときに相反すると読める意見も本書の中にはモザイクのように置かれており、著者の明確な意見は最後まで打ち出されていない。

「中国のごく一部を切り取っただけなのに、それをすべてだと結論づけた本があまりに多く、違和感を覚えていました」

中国をたった1冊の本でひとまとめに語ることは難しい。だからあえて全体を通した結論は打ち出さなかったのだと著者は語る。私たちはそこから何を感じ取るべきだろうか。

「震災後、日本人は自信を失い、自国の経済や文化を低くとらえがちです。けれど、日本をより客観的に見てくれる中国人たちから肯定の声がたくさん寄せられている。例えば飲食店に入れば無料で冷たい水が出てくることとか、空気がおいしいこととか、ささやかな幸せがまだこの国にはたくさんたくさんある、まずはそんなところに一つでも気づいてもらえたらと思う」

(澁谷高晴=撮影)
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