NHK「ばけばけ」では、ヘブン(トミー・バストウ)とトキ(髙石あかり)たちの熊本生活が始まった。新たに働き者の女中が登場したが、実際はどうだったのか。ルポライターの昼間たかしさんが、文献などを基に史実をひも解く――。
ラフカディオ・ハーンのニューオリンズ時代
ラフカディオ・ハーンのニューオリンズ時代(写真=Concerning Lafcadio Hearn, 1908/PD US/Wikimedia Commons

セツの養母は“のんびりしなかった”

NHK朝の連続テレビ小説「ばけばけ」は、いよいよ熊本編に。物語は、トキ(髙石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)たちが熊本に移り住んで3カ月が経ったところから。トキの家族をはじめ、松江からの馴染みの人々に加えて、新たに登場したのが健気に働く女中のクマ(夏目透羽)。めちゃくちゃ働き者なのだが、おかげでトキもフミ(池脇千鶴)もやることがないという具合に……。

さて、ドラマではちょっとクマに辟易しているところもあるフミだが、史実はちょっと違う。八雲の妻であるセツの養母・トミはもともと零落していた頃から役に立たない男連中と違い、セツと共に家計を支えていた働き者だ。

熊本で八雲に一家揃って世話になることになっても、トミは決してのんびりしなかった。むしろ逆だ。

トミの戦略は明確だった。セツには八雲の身の回りの世話と執筆サポートに100%集中させる。そのために、家事労働の一切をセツから切り離す。女中たちに的確に指示を出し、家事を完璧に回していたのである。

八雲と意思疎通できるのはセツだけ

これには、もうひとつ理由があって、意思疎通が十分にできるのがセツだけだったからだ。

セツは英語を学ぼうと努力していたが、二人の意思疎通の多くは後に「ヘルンさん言葉」と呼ばれる二人だけの独特の言語に頼っていた。

二人きりなら、夫婦の愛もあって理解できるが、これはほかの家族だとなかなか理解困難である。おまけに八雲、不自由ない暮らしを与えてくれて「ええ婿さんじゃのぉ」と感謝はすれども、ちょっと面倒くさいのも事実。だから「家事はこっちでまわすけん、あんたは旦那さんの世話だけしてごしない」というのは非常に合理的な選択だったのだろう。

おかげで、夫婦の時間はたっぷり取れたわけで、いいことずくめだったといえる。

熊本時代の八雲家の一日を見てみよう。

当時八雲が、東京のチェンバレン教授に宛てた手紙によれば、起床は毎日朝6時、最初に起きるのはセツ。八雲を起こすと、彼は起き抜けにまず煙草で一服。このタイミングで召使いたちが入ってきて朝の挨拶。

ちなみに、セツは起きると古い武士の挨拶をするというから、恐らくは三つ指をついて……ということなのだろう。現代的な感覚だと、一度や二度なら殿様気分でいいかもしれないが、毎日されると……。いったい八雲もどんな気分だったのか。