地方で鍛えたからこそ都心や駅前でも選ばれた

「カラオケは感染リスクが高い」――。緊急事態宣言が初めて発出されたのは2020年4月。創業以来、当社はさまざまな困難を乗り越えてきましたが、あのときが最大のピンチでした。

コシダカホールディングス社長 腰髙 博
コシダカホールディングス社長
腰髙 博 Hiroshi Koshidaka

1960年生まれ。前橋市出身。東北大学経済学部を卒業後、家業のラーメン店に入社。90年カラオケ事業に転進し、95年から現職。

当社だけではなく、業界全体が本当に苦しい状況に陥りました。それでも、当社にできることはやはりカラオケしかありません。そこで、他のカラオケ店や飲食店の閉店によって賃料の下がった物件を確保し、都心や駅前の一等地へ積極的に出店することにしました。さらに、21年には居酒屋チェーンの大庄が運営していたカラオケ店約40店舗を丸ごと譲り受けたのです。業界内からは驚きの声が聞こえてきました。

生き残りがかかった状況で攻めの出店やM&Aができたのは、「もしカラオケが世の中から必要とされなくなったら、そのときは潔く商売を畳めばいい。路頭に迷っても仕方がない」という覚悟があったからです。おかげで、本来であればなかなか手に入らないような好立地の物件が破格の賃料で手に入り、コロナ明けのリベンジ消費が盛り上がったときには、その追い風を最大限に受けることができました。

まねきねこロゴ

存亡の危機から6年。「まねきねこ」をはじめとする当社のカラオケ店舗数は780を超え、競合他社に圧倒的な差をつけています。カラオケ事業の売上高は約672億円(25年8月期)と、19年当時の倍近くに達しました。

さらにさかのぼると、13年ほど前にも大きな転機がありました。それまでの私たちは北関東や信越のロードサイドを主戦場としてきましたが、地方だけではどうしても市場が縮んでいくことが目に見えていたため、都市部に打って出ることを決断したのです。

都市部の駅前や繁華街には、競合店がひしめいています。そんな中、当時新宿に1店舗だけあったまねきねこの売り上げは右肩上がりでした。そこで本社機能を前橋から東京に移し、本腰を入れて集中出店に取り組んだところ、これが非常にうまくいきました。

私たちが都会のお客様に選ばれたのは、地方で鍛えてきたからだと思います。地方は市場の厚みがない分、特定の客層だけをターゲットにしていては商売が成り立ちません。そこで私たちは老若男女、三世代の誰もが気兼ねなく入れる「全方位の店づくり」を徹底的に磨いてきました。明るく元気な接客で親しみやすく、敷居が低い。いつ行ってもキレイで、くつろげる。この安心感と清潔感が競合店との大きな差別化要因となったのです。

全世代にお越しいただくための施策の一つに、高校生のルーム料金をタダにする「ZEROカラ」があります。正直に言えば、ここまでするとなかなか売り上げにはつながりません。しかし、高校生にまねきねこの存在をしっかりと印象づければ、大学生、社会人になったときに必ず戻ってきてくれます。社内で「カムバックサーモン作戦」と呼ぶこの戦略は、LTV(ライフタイムバリュー:顧客生涯価値)を最大化する先行投資ともいえます。事実、1700万人を超えるアプリ会員の6割強は20代以下が占めています。

【図表】「全世代に向けた店づくり」が地方で商売をするために欠かせない

創業期から続く「持ち込み自由」もまねきねこの大きな特徴です。一般的にカラオケボックスの収益は約6割がルーム料金、約4割が飲食売り上げだといわれており、後者は決して軽視できません。でも、お客様には「子どもの誕生会で手作りのケーキを持ち込みたい」などの切実な要望があるのです。我々が提供できるメニューにはどうしても限りがありますから、お客様のニーズには応えるべきだと考えています。

あるお店ではこんな話がありました。週末のピーク時、満室のまねきねこで30分待ちだと言われたお客様が、「じゃあ、ほかに行く?」と顔を見合わせます。しかし、手にはコンビニで買ってきたばかりの飲み物とお菓子が。他店には持ち込めませんから、「仕方ない、ここで待つか」と残ってくれるのです。

(構成=堀尾大悟 撮影=遠藤素子)

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