社会のインフラを担う企業は、その時間軸が長い。東京ガスにもまして、気の遠くなるようなプロジェクトを遂行しているのが、東海旅客鉄道(JR東海)である。同社が建設を計画しているリニア中央新幹線は、2027年に東京-名古屋間、45年に名古屋-大阪間の開業を目指している。4月に社長に就任した山田佳臣も、完成形を見ることはあるまい。まさに、企業100年の計だ。
建設費は総額で約9兆円、長期債務残高は最大で5兆円まで膨らむと見込まれる。年間4000億円以上の営業キャッシュフローを稼ぎ出す同社でも、その負担は重い。山田は、「恐ろしいですよ。はっきりいって恐ろしい」と率直に話す。
だが、一方で「国鉄の愚を繰り返さないように、ギリギリの限度を定めて試算している」と自信も覗かせる。自力建設がもたらすのはリスクだけではない。会長の葛西敬之、前社長で副会長の松本正之、そして山田は、いずれも国鉄民営化の経験者。政治家と官僚が蠢く魑魅魍魎の世界を、よく心得ている。民間会社として経営の自由度を確保することの重要性もわかっているのだろう。例えば経営状況に応じて、計画も柔軟に変えられる。実際、今年4月には名古屋開業の2年延期が発表された。一方、大阪開業については「経営実績次第では早まる」と説明している。まさに民間会社の矜持である。
「山田時代のJR東海は何をしますか」と問うと、「鉄道会社の経営はバトンタッチ。いまやれることを徹底してやって、次につなげていく。その繰り返しです。『オレは何をやった』などといいだすようになったら、鉄道経営者としてはおしまいですよ」という。
バトンタッチとはいいながら、山田が進める新たな挑戦は、リニアの国内開業だけにとどまらない。一つは今年1月に輸出候補を明らかにした新幹線とリニアの海外展開だ。