人生とはわからないものだ。第一三共の新社長・中山讓治は、第一の生え抜きでも、三共の生え抜きでもない。

第一三共は2005年に、三共と第一製薬が共同持ち株会社を創設して経営統合、07年には完全統合して誕生した国内第2位の製薬メーカーだ。中山は、阪大から米ノースウエスタン大学院でMBAを取得して、79年にサントリーに入社。食料、飲料、財務部門などを経て、医薬品を担当しているときに、旧第一製薬がサントリーの医薬品部門を買収した。これに伴い、03年に約250人の部下とともに、第一に移った。中山は買収元のトップに上り詰めた。

だから、外部からは三共と第一の対立を避けるためのバランス人事という見方もされる。選ばれた理由を本人はどう考えているのだろうか。

<strong>第一三共社長 中山譲治</strong>●1950年生まれ。79年ノースウエスタン大学院修了、サントリー入社。2002年、第一サントリーファーマ社長。03年、第一製薬取締役。07年、第一三共執行役員。10年、現職。
第一三共社長 中山譲治●1950年生まれ。79年ノースウエスタン大学院修了、サントリー入社。2002年、第一サントリーファーマ社長。03年、第一製薬取締役。07年、第一三共執行役員。10年、現職。

「森田清(前会長)さんと庄田隆(前社長)さんが相談して決めたことだと理解していますが、出身にこだわりなく選んでいただいたということに関しては、驚くと同時に感激しました。これから医薬品の業界も大きく変化していく。その意味で、食品だとか、飲料だとか、私自身が変化をずいぶん見てきたので、多少はそういう実地感覚が、評価されたのかなと思っています」

医薬品業界にもまた、時代の大きな変化の波が押し寄せている。国内は人口減少と高齢化が進み、財政難から医療費の抑制傾向が続く。一方、海外は新興国が勃興し、人口が増え、医療に対するニーズも高まっている。さらに「2010年問題」と呼ばれる有力新薬の特許切れが続く。

こうしたメガトレンドのなかで、第一三共は、新薬中心の事業構造を大きく変革しようとしている。焦点を定める主力分野は、新薬、ジェネリック薬品(後発医薬品)、ワクチン、OTC(薬局で売られる一般薬品)の4つ。新薬中心の武田薬品工業とは、その路線が異なっている。

中山の言葉を借りれば、それは「シナジーのある多角化」。もちろん中山も、その難しさは十分理解している。

それぞれ商売のツボが違うからだ。例えば、OTCは製品のサイクルが早く、ブランドや広告宣伝などマーケティングが、成功のカギを握る。一方、新薬は製品化までに10年単位の期間と膨大な開発費がかかる半面、成功すれば大きな利益を生み出す。要は、ビジネスモデルが違うのだ。