世界経済の地殻変動に、救われた業種もある。かつては「鉄は国家なり」といわれ、その後衰退の道を歩むかに思われていた鉄鋼業である。2000年代前半から、中国を筆頭に、インド、ブラジルなど新興国が台頭し、世界の鉄鋼需要はその水準を切り上げた。
08年のリーマン・ショックで一時的に需要は落ちたものの、先進国に比べて新興国の回復スピードは圧倒的に速い。JFEHD社長の馬田一は「経済をはじめ、力の中心が日米欧の先進国から、新興国に移動している」と表現する。
JFEHDは、周知のように02年に、川崎製鉄とNKKが経営統合して誕生した鉄鋼業を軸とする企業集団だ。粗鋼の生産量は新日本製鉄に次いで国内2位の位置を占める。
世界の人口は現在の60億人が50年には90億人に増え、新興国の経済発展に伴って、鉄鋼需要も13億トンが26億トンへ倍増すると予想されている。もちろんアップダウンはあるだろうが、「需要がついてくる以上、我々のビジネスチャンスはますます増える」。
一方、韓国、中国、インド、ブラジルなど新興国の鉄鋼メーカーの追い上げも急。競争もまた、ますます激しくなる。そのなかで、馬田の考える競争力の源泉は「技術」、キーワードは「環境」だ。
例えば車。自動車は重量が軽いほど、走行距離が伸び、燃費がよくなる。そのためには、薄くて軽く、かつ強度の高い鋼板を開発しなくてはならない。モーターに使われる電磁鋼板も、高性能になるほどエネルギー効率が上がる。火力発電所向けの鋼管や原子力発電用の厚鋼板もまたしかり。環境分野では、技術開発の余地は大きい。