世界経済の地殻変動に、救われた業種もある。かつては「鉄は国家なり」といわれ、その後衰退の道を歩むかに思われていた鉄鋼業である。2000年代前半から、中国を筆頭に、インド、ブラジルなど新興国が台頭し、世界の鉄鋼需要はその水準を切り上げた。

08年のリーマン・ショックで一時的に需要は落ちたものの、先進国に比べて新興国の回復スピードは圧倒的に速い。JFEHD社長の馬田一は「経済をはじめ、力の中心が日米欧の先進国から、新興国に移動している」と表現する。

<strong>JFE HD社長 馬田一</strong>●1948年10月7日生まれ。73年、東大工学院修了、川崎製鉄入社。95年、鉄鋼企画部企画室長。99年、経営企画部長。2003年、JFEスティール専務。05年、同社長。10年、現職。
JFE HD社長 馬田一●1948年10月7日生まれ。73年、東大工学院修了、川崎製鉄入社。95年、鉄鋼企画部企画室長。99年、経営企画部長。2003年、JFEスティール専務。05年、同社長。10年、現職。

JFEHDは、周知のように02年に、川崎製鉄とNKKが経営統合して誕生した鉄鋼業を軸とする企業集団だ。粗鋼の生産量は新日本製鉄に次いで国内2位の位置を占める。

世界の人口は現在の60億人が50年には90億人に増え、新興国の経済発展に伴って、鉄鋼需要も13億トンが26億トンへ倍増すると予想されている。もちろんアップダウンはあるだろうが、「需要がついてくる以上、我々のビジネスチャンスはますます増える」。

一方、韓国、中国、インド、ブラジルなど新興国の鉄鋼メーカーの追い上げも急。競争もまた、ますます激しくなる。そのなかで、馬田の考える競争力の源泉は「技術」、キーワードは「環境」だ。

例えば車。自動車は重量が軽いほど、走行距離が伸び、燃費がよくなる。そのためには、薄くて軽く、かつ強度の高い鋼板を開発しなくてはならない。モーターに使われる電磁鋼板も、高性能になるほどエネルギー効率が上がる。火力発電所向けの鋼管や原子力発電用の厚鋼板もまたしかり。環境分野では、技術開発の余地は大きい。