※本稿は、大坂貴史『血糖値は食べながら下げるのが正解』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
過度な糖質制限で「糖尿病」と誤診された事例
43歳女性の坂田加奈子さん(仮名)は、定期的に受けている健康診断の糖代謝項目で「C判定(要再検査)」がつきました。坂田さんの実父は糖尿病を患っているため、本人も日頃から健康には気をつけているつもりだったそうです。
にもかかわらず、血糖値が高くなってショックを受け、結果を知ったその日から甘いものはもちろんのこと、ご飯やパン、麺などの主食を一切抜く「糖質制限」に励みました。
そして、後日、クリニックで「OGTT(経口ブドウ糖負荷試験)」というブドウ糖液を飲んで血糖値の変動を調べる検査を受けたのです。
ブドウ糖液摂取2時間後の血糖値は217。通常、上がった血糖値は1時間ほど経過すると下がってくるのが正常です。しかし、2時間経過しても血糖値が200を超えるような高値であるとインスリンの作用が不十分と判断でき、糖尿病と診断する1つの基準になります。
坂田さんは検査を受けたクリニックで「糖尿病なので、薬による治療が必要になる」と言われ、専門病院を紹介されて私が担当する糖尿病内科にやってきたのです。
糖質を制限しすぎると“インスリン”が働かなくなる
坂田さんからよく話を聞くと、主食を一切抜く糖質制限をした状態でブドウ糖負荷試験を受けていたことがわかりました。
過度な糖質制限をしていると、血糖値が上がったときに血糖を筋肉や肝臓などに取り込んで血糖値を下げるインスリンというホルモンが反応しなくてよい状態になっています。これが続くと、インスリンを出す膵臓に“サボりグセ”がついてしまうのです。
膵臓がインスリンを出しにくい状態でブドウ糖液を一気に飲めば、血糖値は急激に上がり、2時間経過しても血糖値が下がらない状況が起きるのは当然です。
しかし、糖質制限は血糖値を安定させるために有効な方法と信じられていることが多く、医師から「糖質制限で食事を改善しても血糖値が下がらないのであれば、薬で治療するしかない」と言われたら、そのように受け止めざるを得なかったようです。