「糖質をカットすれば糖尿病にならない」は誤解

でも、ここには大きな落とし穴がありました。

実は、ブドウ糖負荷試験を受ける際には注意点があります。検査の10〜14時間前までは絶食が必要ですが、検査前の3日以上は糖質を150g以上含む食事をとることが条件になっています。そうでないと、急激に血糖値が上がってもインスリンが反応せず、血糖値が下がらない可能性があって危険だからです。

血糖測定
写真=iStock.com/Maya23K
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しかし、坂田さんはその決まりを守っていない状態、かつ医療機関で確認されないまま検査を受けたことで、今回の問題は起きました。

結果的に坂田さんは「境界型」で糖尿病の一歩手前。糖尿病ではなく、現段階で薬の服用は必要ないと診断しました。案の定、適切に糖質を摂取する食事に変えたところ、血糖値は正常に戻っていきました。昨今、このような事態は頻発していて、決してめずらしいケースではありません。

坂田さんは極端な糖質制限を始めて日が浅かったため大事には至りませんでしたが、長期にわたって極端な糖質制限を継続していると本当にインスリンを出せない体質になりかねません。

糖質制限ブームから10年ほどが経過し、極端な糖質制限を続けたことで血糖値を下げられない人がいらっしゃいます。糖尿病に至り、インスリン注射が欠かせなくなる方もいます。

糖質を極端に減らす食事スタイルでは、必要なカロリーを満たすためにタンパク質と脂質の割合が増えて、とり過ぎになりがちです。すると、筋肉にサシが入ったような状態で糖を取り込みづらくなり、結果的にインスリンが効きにくい「インスリン抵抗性」が上がる事態も引き起こされます。

インスリンが必要なときの反応が悪くなるだけでなく、インスリンが効きにくくなるという、血糖値にとってダブルでよくない状態になるのです。だから、安易に糖質制限に飛びつくのは考えものなのです。

“糖質を摂らなければ、糖尿病にならない”というのは、大きな誤解です。

日本人は太っていなくても糖尿病になりやすい

糖尿病はよく知られているようで、誤解が多い病気です。そもそも病名である「糖尿病」というのも、誤解を生じる原因の1つで、尿に糖が出ることから付けられていますが、糖尿病の診断基準に尿糖の有無は採用されていません。

もちろん、尿糖が出ていれば糖尿病の疑いがあるので検査を受けるべきですが、糖尿病の初期では尿糖が出ないケースもあります。

また、糖尿病は「生活習慣病」というカテゴリで括られることがありますが、食事などの生活習慣だけが糖尿病の原因ではありません。生活習慣が関係することもありますが、要因の半分は“遺伝的な要素や体質によるもの”です。

さらに、糖尿病は太っている人がなる病気と思われがちですが、特に日本人は“太っていなくても糖尿病になるリスクが高い”という事実を知っておくべきでしょう。体重(kg)を身長(m)の2乗で割って算出される肥満度を表す体格指数(BMI)が25kg/m2を超えると、日本では“肥満”と判定します。

2023年の報告では、2型糖尿病患者の平均BMIは24.71kg/m2。つまり、おおざっぱに言って“糖尿病を持つ日本人の約半数は肥満体型ではない”と考えられるのです。

これは、日本人を含めたアジア人の体質が大きく影響しています。欧米人と比べて血糖値を下げる“インスリンを出す力が弱い”のです。だから、過度な糖質制限をすれば、ますますインスリンを出しにくくなって糖尿病に近づきやすくなります。