自ら勉強をする子どもの親は、わが子にどんな声かけをしているのか。未来の成功者を育てるために小学生対象の非認知能力向上に取り組んでいる井上顕滋さんは「親の役割は、子どもの性格や状況に応じて、適切なタイミングで必要な刺激を与えることにある」という。子どもが机に向かうことの価値に気づくための15の声かけを紹介しよう――。
やる気がなさそうに勉強をする子どもを見守る両親
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中学受験を控えるお子さんを持つ親御さんなら、一度は「なんでうちの子は勉強しないんだろう」と疑問に思ったことがあるのではないでしょうか。合格に向け、親としては何とか勉強させたいと思うものの、子どもが全く机に向かおうとしないと、どうしたらよいのか途方に暮れてしまいます。

子どもが「勉強しない理由」は、実は大きく分けて3つあります。

1つ目は「楽しくないから」。勉強を楽しむ工夫がなければ、子どもにとって勉強は単なる「苦行」となり、やる気を削がれます。

2つ目は「わからないから」。理解が追いつかないと勉強がストレスになり、避けるようになります。

3つ目は「重要性が理解できないから」。勉強する意義や目的を知らないままでは、なぜ頑張らなければいけないのか納得できません。

これらの理由が複合的に絡み合い、結果として「勉強しない」という状況が生まれるのです。ここで注目すべきは、子ども自身が意欲的に勉強を始めるには、これらの障害を一つずつ取り除き、「楽しい」「わかる」「大切だ」と感じさせるアプローチが必要だということです。

このような背景を踏まえ、最近では「勉強しなさい」という指示が子どもの学習意欲を損ねる可能性がある、という議論もよく耳にします。

その主張は、心理学や教育学の研究に基づいています。たとえば、心理学者エドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱した自己決定理論では、人間のやる気は「自律性」「有能感」「関係性」という3つの基本的欲求が満たされることで高まるとされています。

親が強制的に「勉強しなさい」と言うと、自律性が損なわれ、子どもが勉強に対して反発心を抱いてしまうことがあるのです。このような理論を背景に、「勉強しなさい」という指示は慎重に使うべきだとする意見があるのも事実です。

しかし、現実の子どもに対応するには、それだけでは不十分です。すべての子どもが放っておいても勉強をはじめたり、やさしい声かけだけでやる気になったりするわけではありません。それではどうしたらよいのでしょうか?

すべての子どもが「放っておいても勉強する」わけではない

教育心理学者キャロル・デュエックの成長マインドセット理論によれば、子どもの学び方や成長の仕方には大きな個人差があります。特に、「固定的思考(Fixed Mindset)」を持つ子どもは、「自分は勉強ができない」「勉強は苦手」と考え、失敗を恐れて挑戦を避ける傾向があります。このようなタイプの子どもの場合、学習や努力の「過程」を重視し適切にサポートすることを前提として、親からの明確な指示が学習を始めるきっかけとなることがあります。

また、スタンフォード大学のBJフォッグが提唱する「フォッグ行動モデル」によれば、人が行動を起こすためには「動機(Motivation)」「能力(Ability)」「きっかけ(Prompt)」の3つが揃うことが必要だとされています。「勉強しなさい」という指示は、まさに「きっかけ」としての外的な刺激となり、適切に使えば子どもが学習を始める第一歩となり得るのです。親の役割は、子どもの性格や状況に応じて、適切なタイミングで必要な刺激を与えることにあると言えます。